全キャラEDがあったら
*全キャラEDみんなでトシマ脱出後
*公式の山田外郎さんのキラル五周年絵より妄想






 トンネルを抜けると、遠く砲声が聞こえてきた。内戦が始まっているのだ。
 アキラは思わず足を止め、背後を振り返った。曇天の下見えるのは旧祖の瓦礫の野原ばかりで、トシマの街並みは影も形もない。それでも、今頃あの空の下のどこかで、トシマの街が戦火に焼かれて消えようとしているのだろう。あちこち内戦の砲撃の影響で炎が上がっている。
 軍人に冤罪に陥れられ、イグラに参加させられて、そこで自分の血の秘密を知って。
 ほんの二週間ほどの出来事だというのに、もう何年もトシマで過ごした気がする。二週間前の自分の生活が、ひどく遠いものに思える。
「……アキラ?」
 アキラの後からトンネルを出てきたケイスケが、不思議そうに見る。それからアキラの視線に気付き、ケイスケも後ろを振り返った。
「トシマ、燃えてるね」ケイスケはしんみりと言った。
「いいんだよ、その方が。仕方ないっしょ、あんな街残ってたって。パーッと燃やして全部清算して、また復興すればいいんだよ」
 後から来たリンは、遠い目をしてトシマの方向を眺める。かつて仲間を殺した実の兄とトシマ脱出の際に協力したことから一応の和解をしたリンだが、まだ自分が和解という決断を下したことを自分の中で消化しきれていない様子だった。
 それを振り切るように、「燃えればいいんだ」とリンは繰り返した。
「いいねぇ、若いってのは」源泉は煙草に火を点けながら言う。「すぐに先に進むことを考えられるのは、若い証拠だ。俺はもう年なんだろうな、トシマが燃えても後に残る罪のことを考えちまう」
 そう言う源泉の言葉の意味は、アキラにも分かった。源泉はENEDの研究者で、ニコルウィルスの開発に関わっていた。ニコルウィルスから生み出されたラインがまだしばらくは市場に出回ること、それを服用して副作用に苦しむ者がいるだろうことを憂っているのだ。
 アキラが目を向けると、源泉はアキラに諦めたような微笑をして見せた。
「しかし、まぁ、先のことはなるようにしかならんな。俺の罪は消えないが、ジャーナリストとして記事を書いて真相を明らかにするさ」
「罪は消えない、か……」ぼそりと呟いたのは、nだった。「そうだな。俺もまた多くの人間の生命を弄んで破滅させた。想ってくれた女までこの手に掛けた……背負っていかねばなるまい」
「罪悪感か? そんなもの、俺は感じんな」
 最後にトンネルを出てきたシキは、ばさりと源泉やnの言葉を切り捨てた。トシマの王であったシキは、最後にはヴィスキオを捨ててアキラたちに協力してくれた。『王に飽きた』というのが本人の言葉だったが、実際にはnやリンと話し合ったことで心境に変化があったのだろう。
 アキラにとっては散々な目に遭わされた相手でもあったが、今となってはこの男の内にある人間らしさを好ましく思うようになっている。
「これまでのことは全て、俺自身の意思で行ったことだ。多くの生命を奪ったことも、王になったことも、何もかも。どれ一つ後悔などしない」
「あんたらしいな」アキラは苦笑する。
「兄貴はやっぱり兄貴だ……」リンがため息をついた。
 ひとしきり苦笑した後に、アキラは背後の日興連へと向き直った。ディバイドラインを示す高い壁が、目の前にそびえ立っている。ここから先には、自分たちの新たな未来があるのだ。

「さぁ、行こうか」

 アキラはみなに声を掛けた。





2010/02/27

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