みんなで年越しの話 *アキラ・コノエ・蓉司が同じ世界にいるパラレルです。 *シキアキ、哲蓉、そこはかとなくライコノで、それぞれにハッピーエンド後な感じです。 一年も終わりのその日。アパートの部屋の大掃除を終えたアキラは、ひとりスーパーへと買い物に出た。 年越しを控えてか、スーパーは買い物客で賑わっている。特に賑わっているのは、特設の年越しそばのコーナーのようだ。しかし、アキラは人々で賑わう一角を通り過ぎ、野菜やカップめんなどを買い物カゴへと放り込んでいく。 今日、アキラは年越しそばに用はない。 アパートの同じ部屋で暮らす同居人のシキは、一週間ほど前から急な裏の仕事で、留守にしている。それは仕事なので仕方がないし、その辺はアキラも承知している。女の子のようにイベント事に一緒に過ごせないことを不満に思うこともない。年末を一人で過ごすというのは、少し寂しいとは感じるけれど。 そんなわけで、普段と変わりばえのしない内容の買い物を終えたアキラは、レジへと向かった。数カ所あるレジはどれも長蛇の列を為している。内心うんざりしながら、アキラは一番短い列の最後尾に並ぶ。すると、すぐにアキラの後ろにもまた誰か来たようだった。 「あ」 背後で聞き覚えのある声が上がる。不思議に思ったアキラは、内心首を傾げながら背後を振り返ってみた。背後にいたのは、黒髪に黒目で大人しげながらも整った顔立ちをした青年だった。蓉司だ。その傍には、明るい色の髪をした活発そうな青年――コノエが立っている。 裏稼業ということもあってあまり人付き合いをしないアキラだが、二人とはあるきっかけで知り合い、時々遊んだりする仲である。とはいえ、自分には珍しく付き合いが続いているというのは、やはり気が合うからだろう。確かに、自分とコノエや蓉司には、どこか似たところがあるような気がする。 「アキラだ!」コノエが声を上げる。 「アキラ、久しぶり」蓉司も微笑する。 「久しぶり。今日は二人そろってどうしたんだ?」 「今日は蓉司の家に行くんだ!」 「そうなんだ。今日は、うちで一緒に年越しそばを食べようってことになって。……よかったら、アキラもうちに来ないか?」 「あぁ。ありがとう。今日は一人だから、行かせてもらう」 ならばそば一つ追加だ、とコノエが列から離れて年越しそばコーナーへと駆けていき、アキラの分のそばを取って戻ってくる。三人は会計を済ませて、そのまま蓉司のアパートへと向かった。 蓉司はアパートに、高校時代の同級生である哲雄と暮らしている。しかし、アキラたちが着いたとき、アパートの部屋に人の気配はなかった。 「適当にしててくれ。そばを作る前に、取りあえずお茶でも淹れるよ」 と、部屋の主が言うものだから、まず寒がりなコノエが一目散に居間のこたつへと滑り込む。いそいそとこたつの電源を入れるコノエの傍に、アキラも腰を下ろした。 「……今日は、哲雄は?」アキラが尋ねると、 「バイトなんだ」とキッチンから蓉司の声が返ってくる。「最初は俺とバイトの休みを合わせる予定だったんだけど。哲雄のバイトしてるバー、今日、年越しパーティが入ったみたいで、休めなかったんだ。で、一人で年越しするしかないなと思いながらちょっと街へ出たら、コノエに会って」 「そうそう」とコノエがこたつにしがみつきながら、頷く。「俺も一人で年越しだったから、蓉司の話を聞いてちょうどいいやと思って。行ってもいいか、って聞いたんだ。――ライは今日、仕事だから」 なるほど。皆、たまたま今日は一人であったらしい。こういうタイミングが重なるところも、いかにも似たもの同士だ。アキラは妙に納得する思いだった。 やがて、三人は蓉司の入れたお茶を飲んでから、年越しそばの用意に取りかかった。といっても、そばをゆでて出汁を作るだけなので、さほど時間はかからない。アキラもコノエも蓉司もあまり料理が上手い方ではないが、年越しそばは大した苦労もなく出来上がった。 三人でこたつを囲み、年越しそばをを前に手を合わせる。 「今年もお世話になりました」と蓉司が礼儀正しく挨拶する。 「二人とも、来年もよろしく!」コノエが元気に言う。 「あぁ。こちらこそ、来年もよろしく」 アキラも笑顔で頷き、三人は年越しそばに手をつけた。 *** 年越しそばを食べ、だらだらと話しながら紅白やカウントダウンライブを見ているうちに夜は更けていった。蓉司の同居人の哲雄が帰ってきたのは午前三時頃で、そこから四人で少しだけ酒を酌み交わした。そんな半端な時間帯に初めて酒盛りになったのは、哲雄以外の三人がさほど酒を好まず、飲む人間がいない限りは酒盛りをしようという流れにならないからだ。 半端な時間帯の酒盛りが終わったのは午後四時半頃。アキラは泊まっていけという蓉司の勧め辞退して、コノエと二人アパートを後にした。せっかく哲雄が帰ってきたなら、二人で寛がせてやる方がいいと思ったのだ。 まだ暗い帰り道の途中でアキラは更にコノエとも別れ、ひとり待つ者のない自分のアパートへ戻る。そうして、アパートの玄関先に差し掛かったときだった。同じくアパートへ入ろうとするシルエットがあって、ふと見るとそれはシキのようだった。 「シキ……どうして」 意外さのあまり、アキラは声を上げる。仕事を終えて戻ってくるのは、もう数日先だろうと思っていたのに。 「仕事を、さっさと片づけて帰ってきた。……お前は、夜遊びをしていたのか?」 「違う。……いや、まぁ、そうと言えばそうなんだけど。コノエと蓉司と一緒に、蓉司の家で年越しそばを食べて酒盛りしてたんだ」 「そうか。お前が年相応に遊ぶのは珍しいな」 他愛ない会話を交わしながら、二人は二階の自分たちの部屋へと向かう。アキラが部屋の鍵を開け、中へ入ったところで不意に背後から腕が伸びてきて抱きしめられた。 バタン。支える手を失ったドアが、二人の背後で音を立てて閉まる。 「……急にどうしたんだ、シキ?」 「お前の身体は暖かいな」 「そうか? 蓉司の家から歩いてきて、結構冷えてるけど。……まぁ、でも、あんたよりはマシかな」 「あぁ。……年末に俺がいなくて、寂しかっただろう? そうでもなければ、いくら気の合う相手でもお前が他人の家に泊まるはずがない」 「あんたこそ、俺が恋しかったんだろ? そうでなきゃ、こんなに急いで仕事を終わらせて帰ってくるはずない」 そう言い返してやると、シキは答えずにくつくつと咽喉を鳴らして愉しげに笑う。それにつられるように、気づけばアキラ自身もも肩を揺らして笑っていた。お互いに相手の質問には答えなかったが、笑って見せたことが答えも同然だ。結局のところ、お互いが恋しかったのだ。 しばらくして、笑いを収めたアキラはシキの腕の中で身体を反転させた。腕をシキの背に回して身を寄せ、唇を重ねる寸前でふと思いついて囁く。 「あけましておめでとう。今年もよろしく」 「あぁ」 シキが微かに頷いて、二人の間に残る僅かな距離をゼロにした。 2010/12/31 |