永劫を契る *二人が転生の末にシキとアキラとして生まれたという設定です。 *シキもアキラも女性として転生したことがあるという記述を含みます。 *転生ものですので、前世の場面での死にネタを含みます。 昔から、隠れ鬼は得意だった。探す方も隠れる方も。 そうであったからこそ、自分は裏の世界で生きて来られたのだろう。少なくともアキラはそう信じている。 裏の世界を渡っていくには、もちろん、表通りから隠れなければならない。身を隠すだけの才覚がなければ、裏の世界の住人たちから干されてしまう。かといって、日陰に隠れるだけでは十分ではない。自分の必要とする情報を見つける能力に長けていなければ、生き残ることはできないのだ。 そうした能力を生かしてアキラは、現在、ある男を避けている。 男の名はシキといった。 シキはいわばアキラの同業者だった。黒ずくめの衣装に時代錯誤な日本刀、凍てついたような美貌といえば、アキラの棲む闇の世界ではシキの代名詞のようなものだ。殺し屋のくせにとにもかくにも目立つ男だと言える。しかも、憎ったらしいことに、シキという男はやたらに腕が立つ。姿形と人殺しの腕とが相あまって、一種の伝説的な存在にさえなっていた。 殺し屋としては新米に近いアキラは、そんなシキが面白くない。表の世界と同じく、裏社会もまた信用と評判が第一なのだ。たとえば、普段からシキが取っているような難しい依頼の一件もやってのければ、殺し屋としての評判がどれほど上がることか……。 そこで、アキラは実力行使に出た。 たびたびシキを追いかけて闘いを挑んだのだ。実力差があるのは分かっている。しかし、彼は親友ケイスケの死に関係する因縁のある相手である。いつか越えると誓いを立ててもいた。無謀だと言われながらも、アキラはシキを追うことを止めはしなかった。 けれど。 そのうち奇妙な現象が、アキラに起こり始めた。何度も何度も妙な夢を見るのである。夢の内容はさまざまだった。着物を着ていたり洋服だったりと、格好から察するに夢の舞台の時代もさまざまであるらしい。けれども、決まってシキが出てくるということだけは共通している。 ――否。あれは本当に“シキ”なんだろうか……? 夢の中で、アキラは男であることもあれば、女や子どものときもあった。同様に、相手も様々な姿で現れる。しかし、アキラにはどういうわけか、それがシキであると感じられるのだ。 気のせいだ。ただの夢だ。アキラはそう思おうとした。だが――それでは説明の付かない事態が起きてしまったのだ。 それも、よりによってシキと闘っている最中に。 あれは久しぶりに、神出鬼没なシキの居所を掴んだときのことだ。息を潜めてシキの帰りを待っていたアキラは、歓喜と共に路地裏から飛び出して彼に襲いかかった。シキに斬りかかる、まさにその瞬間、アキラは湧きあがってきた記憶の奔流に呑み込まれた。 普段見る夢とはまったく違う。意識を呑み込んでしまうかのようなそれは、記憶の奔流としか言いようのないものだった。その記憶は今からずっと昔――明治時代あたりの出来事のようである。アキラはある裕福な家庭に生を受け、二十代で病死をした。傍らには親友が――どういうわけか、それがシキだと分かるのだが――いた。その人生の細々とした思い出が蘇ってきたのだ。 簡単に“他人の人生の記憶”と言ってしまっているが、その量も重みも言葉では言い表せないほどである。記憶の奔流から抜け出したときにはかなり時が過ぎていて、闘っていたはずのシキもいなくなっていた。 『――な、何だったんだ……?』 ひとり取り残された路地裏で呟いてみても、もちろん、誰も答えてはくれない。結局、アキラは気のせいだと思うことにした。次にシキに遭遇するときには、同じことが起こらないように――そう願いながら。 だが、結論から言えばアキラの考えは甘かった。一度あることは二度目も起きるのである。そうでなければ『仏の顔も三度まで』などという慣用句ができる訳がない。 二度目のシキとの遭遇で、アキラは再びシキに斬りかかった。そのときに問題の現象は起きた。また記憶の奔流がやってきたのだ。ただし、今度はシキと親友として生きたというあの記憶ではなかった。 今回の記憶は江戸時代のものらしい。特徴的な髷(まげ)を結った男女がちらほらと顔を出す。記憶の中で、アキラは五歳の少年だった。どうやら、どこかの大名家の嫡子のようである。広々とした庭を、少年のアキラは一人の女性の元へ駆けていく。 『――母上!』 少年のアキラの声に振り返った女性は――シキだった。面差しも雰囲気も違うのに、どうしてか今回もそうだと分かった。 記憶によれば、大名の嫡子は夭逝(ようせい)したらしい。お家騒動に巻き込まれて、密かに殺されてしまった。そのため、アキラは母親であるらしいシキがどうなったのか、行く末を知ることはできなかった。 そうして目が覚めると、やはり闘っていたはずのシキがいない。同じような異様な出来事が二度もあれば、さすがにアキラも『気のせいだ』と自分をごまかしていられなくなる。 ――俺はおかしくなってしまったんだろうか……。 アキラは急に不安になった。 思えば、これまでの奇妙な現象は、毎回、シキと接触した際に起きている。となれば、シキと相対することがなくなれば、もう起きないのではないか――。そこで、アキラはシキを避けることに決めた。 だが、世の中というものは往々にして、思い通りにはいかないものである。アキラがシキを避けるようになると、今度はシキがアキラを追っているという噂が聞こえてくるようになった。裏の世界には嘘の情報も少なくない。けれども、悪いことにアキラとシキに関する噂は事実だったようだった。 シキほどの腕利きは、その気になればどんな情報でも手に入れることができる。アキラのような新米が逃げ隠れしたところで、何の意味もない。シキにしてみれば、アキラの逃避など往来のど真ん中でつっ立っているのを探しだすようなものだろう。 案の定、すぐに見付かってしまった。 夜の街のどこにでもあるような特徴のない路地裏で、シキはアキラを待っていた。そこを通りかかると分かっていたようだ。路地に差し込む月の光を受けて、引き伸ばされたシキの影がアキラの足元まで届いている。いつもと同じように強い意思の光をたたえた瞳に射すくめられて、束の間、アキラの背に走ったのは――懐かしさだった。 傍にいきたい。 視線を交わしたい。 そんな衝動がこみ上げて来る。 しばらくの間、シキを避け続けるうちに知らず知らずのうちに募っていたのは、自分でも意外なことに憎悪でも敵愾心でもなかったらしい。離れているうちに憎しみも何もかもが薄らいで、シキに惹かれる感覚だけが強く残っていた。そういえば、とアキラは納得する。そもそも、初めてトシマでシキに出遭ったときに感じたのも、心が引っ張られるかのような説明のつかない感覚だった。余計なものを取っ払ってしまえば、自分とシキの間にあるものは単純だ。まるで目に見えぬ細い糸のようにつながる、惹かれるような感覚だけ。 それでも。 (――このままシキと会うわけにはいかない) ――思イ出シテハナラナイ。 反射的に、アキラはシキに惹かれる意識を断ち切るようにして、身を翻した。一目散に路地の出口へ向かう。しかし、不意をつくならともかく、ばったり出くわしてしまった以上は顔が見える距離などもはやシキの間合いのうちに等しい。ぶわりと背後で殺気が膨らんだかと思うと、数瞬の後にはシキの気配が間近に迫っていた。 あっと思う暇(いとま)さえなく、地面に引き倒される。 「ぐっ」 コンクリートの上に押さえつけられて、アキラは懸命にもがいた。鞘に収まったままの自分の刀を振り回し、シキを攻撃しようとする。しかし、もちろんシキほどの実力者に苦し紛れの滅茶苦茶な攻撃が通じるはずもない。 シキはいとも容易(たやす)くアキラの腕を押さえつけてしまった。そのまま、背中にのしかかるように体重を掛けてくる。ふとシキの吐息が首筋をくすぐって、アキラは彼の顔が自分の顔の間近にあることを悟った。 その直後。 「――暴れるな」 シキの静かな声が耳に吹き込まれる。その響きにぞくりと甘い痺れのようなものが背筋を駆け抜けた。自分の意思に反した、まったくの条件反射だった。 「嫌だっ……!」アキラは精一杯抵抗してみせたが、 「暴れるようなら、腕をへし折ってやろうか。まずは右腕、次に左腕、それから足に移って……」シキは本気としか思えない声音で言う。 そんな拷問みたいな真似をされるのは御免だ。アキラは渋々、抵抗をやめた。すぐにシキが「そう、それでいい」と呟く。 「アキラ。なぜ俺から逃げる?」 「なぜって……。別に理由はないさ。そもそも、ルーキーの俺が伝説と化したあんたに挑むのが無謀なんだよ。どっちかというと、避ける方が賢いだろ」 シキの問いにアキラは淀みなく嘘を吐いた。真実を言えるはずもない。あんたと遭遇するたびに妙な記憶が頭に蘇るんだ、なんて告白したところで信じてもらえるとは思えなかった。 しかし。 「嘘だな」シキは断定的に言った。 「何……?」アキラはぎょっっとする。「何を根拠に……」 「――俺と顔を合わせると、前世の記憶が蘇る。だからお前は俺を避けてるんだ」 「っ……」 なぜそれを。まさか――。 アキラはぎょっとして、肩越しに振り返った。途端、シキの紅い瞳と視線が絡む。その瞬間だった。いつものように記憶の奔流が押し寄せてきた。 それも、今回は一度の人生ではない。別の生と思しき記憶も入り交じっている。最初の記憶――室町時代あたりらしいその記憶の中で、アキラはシキの妻だった。二人は百姓夫婦で、戦が起きると夫はいつも足軽として駆り出された。そうして、何度目かの戦の折、出ていった夫はとうとう帰らなかった。 (――俺がシキの妻だって……!?) 一瞬、アキラはぎょっとした。が、すぐに思い直す。問題は自分が前世で女だったとか、シキと夫婦だったとかそういうことではない。そもそも、前世の記憶が蘇ってくること自体が異常なのである。そして、それをシキが知っているということも。 記憶の奔流が止みかける。もういいだろう、とアキラはシキに問いただすために振り返った。そのときだ。肩越しにシキの紅い目と視線が合ったその瞬間、新たな記憶が流れ込んできた。 (な、何だ……!? いつもと違う……) 為すすべもなく、アキラは新たな記憶の波に呑み込まれた。 *** おぼろ月が空に掛かる、春の宵だった。上等の狩衣をまとったアキラは、ひとり池に張り出した釣殿で酒を飲みながら人を待っていた。庭に植えられた桜の木が花を付け、さらさらと花びらが夜風に運ばれてくる。 まるで夢のような宵だった。 と、不意に庭土を踏む音がする。庭木の間からすっと姿を現したのは――シキだった。腰に太刀を佩(は)き、質素な衣を身につけている。しかし、その面差しは凛として、衣さえ替えれば貴族と言われても誰もが納得するだろう気品があった。 「よく来たな、――」 アキラはシキに微笑した。そのときシキの前世での名を呼んだらしいが、その名は頭の中に留まらない。これまで蘇った記憶でもそうであったから、そういうものだということはアキラも分かっている。 「――様。お待たせしてしまい、申し訳ありません」 シキは恭しく言った。こちらもアキラの名を呼んだようだが、意識から滑り落ちていってしまう。そういうもの、なのだ。 「その話し方は止めよ」アキラはシキに少しだけ拗ねた顔をしてみせた。「約束しただろう。二人で過ごすときは身分の違いを忘れ、ただ想い人としてのみ接すると」 「そう……だったな」 頷いて、シキはアキラの傍にやってきた。寄り添うように腰を下ろす。そんな想い人にさらに身を寄せてしなだれかかりながら、アキラはそっと目を閉じた。 「どうか二人きりのときは遠慮しないでくれ。遠慮をされると、怖くなる。お前は私に侍る武士であるから、恋人になれという我が侭に付き合ってくれているだけではないか、と」 「そんなことはない」 シキはきっぱりとした声で言った。同時に刀を握る無骨な手が、楽を奏で書を綴るだけの柔らかなアキラの手を包み込む。ふれ合う肌の温もりに、アキラは目を閉じたまま微笑んだ。 目を開けたら、泣いてしまいそうだった。 「……いつか、身分の違いなどなくなる世が来ればいいな。そうすれば、私はお前の気持ちを疑わずに済む。お前は私と対等で、何のしがらみもなく私を好いてくれているのだと納得することができる――」 「今でも好いているさ。何のしがらみもなく。我が心だけは何にも囚われない真だ」 そう言ってシキは、アキラの身体を抱き寄せた。 場面は打って変わって。アキラは真っ暗な納屋の中でうずくまっていた。納屋の外は怒号や悲鳴が入り乱れている。政敵の命を受けた武士団が、アキラの邸を襲撃してきたのだ。 貴族が支配した平安の世は終わろうとしている。そうでなければ、いくら政敵だとはいってもこうして武士を差し向けて邸を破壊したりはしない。 ――もはやこれまで。 アキラはそう思った。不思議と凪いだ気持ちになっている。いっそ逃げ隠れせずに表に出ていって首を差し出してもいいくらくらいだ。それでもこうして卑怯にも納屋に潜んでいるのは、待っているせいだった。 時を――シキが現れるのを待っている。 想い人たるシキは、今回、アキラの政敵に付いていた。仕方のないことだ。政治にしろ争いごとにしろ、強い方に、時流の味方する方に付くのは当然のことである。そこに個人の想いは関わりない。情に流されて付くべき相手を間違えるようでは、貴族であれ武士であれ、一門を率いる長の器とは言えぬ。 その点、シキは立派に一門の長としての役目を果たした。想い人であるアキラの存在に惑わされず、敵方に付いてみせた。その事実がアキラには――誇らしい。とてもとても誇らしい。さすがは我が想い人よ、と自慢に思う。 ただ、そうした思いとは裏腹に、アキラには望みがあった。政敵に破れ、葬られていくのならば、ただ一つだけ我が侭を通したい。だからこそ、逃げもせずに潜んでいる。 こうして、敗者の側になったからには、もはや今生でシキと過ごすことはできまい。よくても流罪、悪ければ誰かの手で殺される。それならば。 『――願わくば、来世でシキと』 納屋の闇を見つめながら、アキラは微かに呟く。ずっと未来(さき)に生まれ変わったならば、その世は身分も争いもないかもしれない。どんな世になっているかは想像も付かないが。とにかく、そんな世の中で再びシキと出逢えればいい。そうしたら、自分は必ずまたシキを愛するだろう。身分も争いもなければ、きっと最後までシキと共にいられるはずだ。 そのために。 (――今生でシキに殺されて、生を終える) 輪廻転生において、夫婦や親子の縁は一世二世は続くと言われている。だが、殺し、殺された者同士の縁は永劫なのだとか。身分も争いもない世でシキと出逢うためには、たかだか一世や二世の転生では足りない。どうしても殺し、殺された者として、輪廻の果てまでも続く縁が必要なのだ。 シキが早く来ないか、とアキラは焦がれる思いで念じた。そのときだ。がらりと納屋の戸が開く。顔をのぞかせた下人がアキラの姿を見つけ、声を上げた。外に人が集まる気配がする。 「最後の最後で、些細な我が侭すら叶わないのか……」 アキラは絶望と共に呟いた。その間にも、下人たちの手で納屋から引っ張り出される。連れ出された庭の人だかりの中には、アキラが待ち望んだシキがいた。強ばった顔でアキラを見つめている。その目がアキラを責めていた。 そう、シキはそれとなく警告してくれていたのだ。数日前に、アキラにどこぞ物見遊山に出かけてはどうか、などと。それでも、アキラが都から去らなかったのは、それこそ自分の我が侭のためだった。 衆人環視の中、アキラはシキの前にひざまずかされた。それでも、アキラは周囲を無視してシキだけを見つめていた。その姿を、最後に目に焼き付けようとした。 『なぜ……』シキは微かに呟いた。 なぜ逃げなかったと聞きたがっているのが分かる。アキラは微笑んでみせた。 『来世のために』 そう答えると、シキも悟ったらしい。ひどく苦しげな表情で、腰の太刀を抜く。アキラは微笑したまま、そっと目を閉じた。望み通りに、太刀が風を切って振りおろされる音が聞こえた――。 *** 意識が戻ったとき、アキラはいつもと同じように路地裏のアスファルトの上に寝転がっていた。それでもいつもと違うのは、隣にシキがいることだ。まるで今時の若者のように壁に背を預け、膝を抱えている。 「――シキ……?」 「目が覚めたか、アキラ」 「あぁ……」アキラは頷いて、上体を起こした。アスファルトの上にぺたりと胡座をかいて、シキに向かい合う。「なぁ、あんたは……いや、あんたも前世を覚えているのか?」 「……そうだ」シキは答えた。 「そっか……。それって、生まれたときから?」 「いや。トシマを出て、お前に生命を狙われるようになってからだ。初めてお前が俺に挑み掛かってきた瞬間に、すべてを思い出した」 「すべて?」 「すべてだ。……知っているか? 俺とお前はすでに七度、この世に転生して巡り会っている。それも、俺の記憶があるだけでの話だ。記憶のないままに過ごした生もあるかもしれん」 シキの言葉にアキラは目を丸くした。これまで蘇ってきた前世の記憶を、指折り数えてみる。 「七度? だけど、俺は四度しか思い出してない」 「あぁ……。俺の知るだけでも、お前は何度か前世の記憶なしに転生してきたことがある。別に俺はそれでも構わなかったが……しかし、辛かったぞ」 「辛い?」 「何度も何度も、お前が死ぬのを見送らなければならなかった。先に俺が死んだときもあったが……それとて、後に残すお前のことが気になって仕方がなかった。悟りの先が輪廻の解脱だというのが、よく分かったさ」 「それは……ごめん」 アキラは殊勝に謝った。 これまで生命を狙ってきたシキに素直に接するのは、何だか妙な気分である。だが、夫婦や血縁、恋人として過ごした前世の記憶が蘇った今となっては、単純にシキを敵視していた頃のようにも振る舞いにくかった。おまけにシキもまた、アキラに情があるかのような態度であるから、余計に反発する気が削がれてしまう。 シキもそうだったのだろうか。ちらりとアキラを見て、ふぅとため息をはいた。 「な、何だよ。人の顔見てため息って、失礼だろっ」 「何が失礼か。どうせその様子では、お前は俺に対してしてきた所業を、覚えていないのだろう?」 「所業って……?」 「昔々、お前は俺に自分を殺させた。そうすることで永劫の縁を結ぶのだ、と。その癖に、お前はおそらくお前の記憶にない生の中で、たびたび俺から遠ざかった。いったいどういうつもりだ……と問い質したが、どうせ理由(わけ)も覚えてはいないのだろうと思ってな」 「あ……。それ、は……」 何だか分かる気がする。つっかえつっかえ、アキラは話だした。 「多分、俺は永劫の縁を望んだけど、怖くなったんだと思う。だって生まれ変わる度、俺かあんたかどちらかが、相手の死を看取らなくちゃならないだろう? 愛する相手の死を目にし続ける……あんたが言ったように、それは何度も何度も煉獄の苦しみを繰り返すようなものだ。俺は多分、あんたにその苦しみを味わわせることが申し訳なくなったんだと思う……」 「臆病なことだ」シキは咽喉の奥で笑った。小馬鹿にしたような笑い方だった。 「なっ……」 かっとなったアキラは身を乗り出す。その腕を掴んで、シキは自分の方へ引き寄せた。体勢を崩したアキラは、危うくシキの上に倒れ込みそうになる。辛うじて、シキの背後にある壁に手を突いて、それを免れた。 「それで、どうする? お前はどうしたい?」シキは面白がるような顔で尋ねた。 「どうって何が?」 「俺がお前を殺した生から七世。ちょうど今の世は、あのときのお前が望んだ通り身分のない世の中だ。争いはあるが。それでも、俺もお前も何にも縛られることはない……己の心を除いては、な」 「それがどうしたんだよ?」アキラはシキの言いたいことが分からず、眉をひそめた。 「お前に選ばせてやると言っているんだ。俺が決めてもいいが、最初に永劫の縁を望んだのはお前だからな。今生でも俺と敵同士として殺し合うか、それとも――」 シキの紅い目が挑発するようにアキラを見つめている。その目を真っ向から見返して――アキラは噛みつくようにシキの唇を奪った。 2013/05/19 |