Player *性描写あり。 *CPに関する注意事項あり。ただし、ネタバレのため要反転 ネタバレになりますが、苦手な要素の多い方は必ず反転して確認をお願いします。 →パラレルワールドに迷い込んでゲーム本編の〈シキ〉役を演じさせられる20代アキラと〈アキラ〉役を演じさせられる10代半ばシキ。なので年齢逆転要素があります。また、一見するとアキシキに見えるかもしれません。リバ要素が完全にだめな方は回避してください。 1. 薄暗い路地の中に男は立っていた。足下には死体が転がり、そこから流れ出る血が大きな水たまりを作っている。濃厚な血臭が押し寄せてきて、男は口元を押さえた。足早にその場を歩み去る。だが、惨劇の現場からいくらも遠ざからないうちに、限界がやって来た。男はビルとビルの隙間の小道に入り、嘔吐した。ひとしきり胃の中身を戻したところでようやく落ち着く。 ほうっと息を一つ吐いて、男は自分の掌を灰色の曇り空にかざした。血塗れの手。先ほど男たちを殺めた手応えが今にもよみがえってきそうだ。気分が悪い。先ほどの男たちは自分に絡んで来た。だが、果たして殺す必要があっただろうか。殴りつけて懲らしめる程度で、仕置きには十分だったろうに。 ――いったい、なぜ俺は人殺しなんかしているんだ……? 男には理解できなかった。だが、そうしなくてはならない理由がある。おそらく、男の知る〈彼〉ならば、自身に絡む雑魚なんか許さないだろう。男はこの場所で〈彼〉の言動を、いちいち再現しなければならないのだった。 *** “シキ”は夜のトシマをひとり、歩いていた。麻薬組織〈ヴィスキオ〉の城にラインの原液の入ったスーツケースを届けた帰りだ。夜は魔窟と呼ばれるトシマの中でも、もっとも危険な時間帯である。だが、彼は頓着しない。最強だとか殺人狂だとか噂される彼には、恐れは必要なかった。――否、ないはずだった。 ところが、“シキ”は内心ではトシマの夜を恐れていた。人の心の闇をそのまま映し出すかのようなトシマの夜である。暗がりからいったい何が飛び出してくるのか、分かったものではない。それでも何も恐れるものがないふりをするのは、“シキ”という男がそういう人間だと“知っている”からだ。 実は、彼は“シキ”ではなかった。だったら誰だというのか――思い出すことができない。気がついたときには、トシマの入り口に立っていた。分かるのは自分が別の誰かだということと、“シキ”を演じなければならないということだけ。 最初、彼はトシマから立ち去ったり、“シキ”の演技をじなかったりした。その度に死んだり、意識を失ったりして、目覚めたときには時間がトシマの入り口に巻き戻っているのである。出来の悪いホラーのようだ。だが、事実だった。それで、彼はシキとして、本物の“シキ”を演じているのである。異様としか言いようがない状況だ。 いったい、いつまで演じ続けなければならないのか。彼――シキはうんざりした気分だった。 と、そのときだ。目の前の路地から、細身のシルエットが現れた。月明かりに照らされたその姿はまだ若い。ここでは皆そうだ。まだ大人になりきらぬ若者が簡単に自らの生命を投げ出していく。目の前の青年もそうだった。トシマにたむろする多くの若者同様、熱のない瞳をしている。死を恐れない――生きていても、死んでいても同じだと言いたげな無表情。ただ、彼に他の人間と違う部分があるとすれば、まだ汚れていないという点だった。世間というものを、人間というものを知らず、まっさらなままで生を諦めようとしている。 チリリ。頭の片隅が小さく痛んだ。自分は彼を知っている気がする。同時に、思い出せないまま頭の奥底に眠る記憶がうずくような気配を感じた。視このまま青年を行かせるわけにはいかない。忘れた記憶を取り戻すためには、彼に接触しなければならない――。 焦燥に駆り立てられるようにして、シキは青年を追いかけた。彼はどこかへ向かって歩いて行こうとしているところだった。精一杯、辺りを警戒している様子だが、気配を殺したシキには気づけていないらしい。 シキは自分の存在を知らせるべく、殺気を放ちながら刀を抜いて青年に斬りかかった。さすがにというべきか、青年もナイフを抜いてシキの刃を受け止める。至近距離での鍔競り合い。 強烈な殺気をぶつけるシキに対して、青年は気丈にも目をそらさなかった。艶やかな黒髪に美しい色合いの瞳。トシマを闊歩する腕自慢よりも頼りない――というより、優美な容姿をしているにもかかわらず、連中よりよほど胆力があるようだ。 シキは思わず笑みを浮かべた。 「面白い……」呟きながら、刃に力を込めて青年を突き放す。体勢を崩してアスファルトに倒れ込んだ彼の咽喉もとに切っ先を突きつけながら、シキは尋ねた。「お前、名前は何ていう?」 「――……“アキラ”」青年――“アキラ”はそう答えたものの、すぐに眉をひそめた。「いや、違う。俺はそんな名ではないはずだ……。だが、頭の中で自分の名を思い出そうとしても、“アキラ”しか浮かばない。いったいこれはどういうことなんだ……?」 青年は途中から、自分自身への疑問に意識を奪われてしまったようだった。咽喉もとに突きつけられた刃の存在も忘れたように、考え込むように黙ってしまう。 「やっぱりだ」 シキは仲間を見つけた嬉しさに、笑みを浮かべた。アスファルトに座り込んだままの青年――仮にアキラ――がそれを見上げてぎょっとした表情になる。 「……――殺人狂と言われる“シキ”が笑った……?」 「俺はシキだけど、“シキ”じゃない。あんたと同じだ。自分のことを思い出そうとすると、“シキ”という名が思い浮かぶ。だけど、自分が本物のシキじゃないことは何となく分かっているんだ」 「では、何者だ?」 「分からない。あんたも同じだろう?」 アキラは警戒するような顔でシキをにらんだ。容易に気を許してはくれないらしい。そう思って、シキは笑みを深めた。 ――それでこそ 〈彼〉 だ。 そんな言葉が意識の奥底から泡のように浮かんできたが、シキは気付かなかった。 「あんた、面白いな」 「面白いだと?」シキの言葉にアキラが形のいい眉を跳ね上げる。 「あぁ、面白い。だから、今日のところはあんたを害さないでおく。……また、会おう」 「くっ……」 アキラが悔しげに唇を噛んだ。その身体から、もはや殺気は感じられない。シキは静かに彼の咽喉もとから刃を引いて、鞘に仕舞った。くるりと無防備にアキラに背中を向け、歩き出す。力量の差を自覚しているのか、アキラが隙を見せたシキに襲いかかってくる気配はなかった。ただ、強い興味の視線だけが背中に突き刺さるのを感じた。 *** それから、シキは二、三日の間、退屈な日々を過ごした。トシマを闊歩し、闘いを挑んでくる愚か者を斬り捨てる。夜中にnに遭遇し、彼の置いていくラインの原液入りのトランクを城に運ぶ。――非日常的な環境の中に生じたルーチンワークとも言える習慣だ。 それらはすべて、本物の“シキ”としての行動だった。自分自身が望んでしているわけではない。いったい“シキ”が何のためにそうしているのか、一向に理解できなかった。いったい、いつになったらこの“シキ”の役を演じること――“ロールプレイングゲーム”――から解放されるのか。 先の見えない日々の中で、シキはアキラに逢いたいと切望するようになった。先日、アキラと向き合ったときに少しだけ、“シキ”という“役”ではなく自分自身に戻ることが許された。もっと長い間、言葉を交わして共にいることができたなら、何かが分かるかあもしれない。 そんなある日の夜だった。 シキは仲間らしき男ともめているアキラを見かけた。細い路地の奥――おそらく、並の人間では発見できないであろう目立たない場所で。何となく惹かれるようにシキが近づいていったとき、しかし、争いは既に終わっていた。仲間の男はぐったりとして動かず、アキラがじっと彼を見つめていた。途方に暮れているようだった。 傍に立つと、アキラはゆっくりとシキを振り返った。 「これは?」シキは短く尋ねた。 「俺の親友だ――ということらしい」 「何があった?」 そう聞いたとき、シキはちりりと胸が痛むのを感じた。なぜそんな風になるのかは分からない。だが、思い出せない記憶の中の何かが、眼下に倒れ伏すアキラの親友の姿に感情を刺激されているようだった。 シキは痛みを覆い隠すように、そっと目を伏せた。そんな仕草に気づかず、アキラは淡々と話を続ける。 「この男――俺の親友のケイスケは、ラインに手を出して狂ってしまった。そうして“アキラ”に異様な執着を示して、襲いかかってきたんだ」 「……殺したのか?」 「分からない。殺すつもりはなかった――というより、そうしてはいけないと頭の中で何がが俺を制止した。だが、とっさのことで手加減もできなかった」 「そうか……」 シキは倒れ伏す男を介抱してやりたいと思った。だが、それは許されないと、脳裏で何かが警告を発していた。 ――俺たちは、所詮、“役”をその通りに演じる“プレイヤー”なんだろう。きっと、だから、“役”に反するアドリブは許されないんだ……。 だけど、とシキは思う。警告に反することをして、いったい誰が困るのだろう? そこにこの状況のヒントがあるような気がする。しかし、この奇妙な状況を理解するためには、慎重に行動するべきだった。 たとえば、倒れた青年を救えば、このロールプレイングゲームはたぶんシナリオから外れることになる。そうなったときどんな影響があるのか分からない以上、今はシナリオ通りに行動する必要があった。 ――だって、俺はもとの場所に“帰ら”なきゃならない。たしか、そこで待っていてくれる人がいるはずなんだから……。 シキは伸ばしかけた手を、拳を握ることで止めた。ここで自分がすべき行動は――と考える。 「……アキラ。俺と共に来い」 「誰が貴様なんかと、と言いたいところだがな」アキラは呟いて、夜空を見上げた。と、そのとき、厚い雲からぽつぽつと雨粒が落ちてくる。水滴はすぐに本降りの雨になっていった。「癪な話だが、俺の中の封じられた記憶が、今、お前と行くべきだと告げている」 「じゃあ……」 「付き合ってやる。案内しろ」 尊大な態度でアキラは言った。そんな彼にシキは内心で苦笑する。まるで案内する立場とされる立場が逆転してしまったかのようだった。 2. シキは彼をねぐらにしている廃アパートの一室へ誘った。ねぐらといっても、打ち捨てられて久しい廃墟である。いちおう浴室や寝室、リビングなどはあるのだが、手入れする者もないまま荒れ放題だ。 リビングに入って中を見渡したアキラは、しばらくの間の後、黙ってスプリングの壊れたソファに腰を下ろした。他に身を落ち着ける場所はないらしいと諦めたようである。他人のねぐらで、肝が太いのか、鈍感なのか。シキは心の中で密かに面白がった。 ――きっと、並のイグラ参加者ではこうはいかないだろう。 現に自分は“あのとき”不安で怖かった。 そうだ。“あのとき”――この部屋のベッドに投げ出されて、何をされるかとひどく怯えたものだ。 鋭い錐の先端。溢れ出る血。銀色のピアス。――そして、流れる血の筋を辿る赤い舌。脳裏に幾つかのイメージがフラッシュバックする。目眩を覚えて、シキはふらついた。体勢を保てない。その場にくずおれてしまう。為す術もなく、シキはソファに座るアキラに向かって倒れ込んだ。 突き放されるかと思ったが、意外にもアキラは腕を差し伸べてシキを抱き止めた。シキが上から覆い被さる格好で、互いに至近距離で見つめ合う。その刹那、シキの脳裏をもう一度、様々なイメージが駆け抜けていった。 「っ……」 イメージの奔流が終わって顔を上げると、アキラもなぜか苦しげに眉をひそめていた。それも、抱き留めているシキの重みに潰されかけている、なんて理由ではなさそうだ。 シキが驚いていると、アキラは不機嫌そうな顔のまま口を開いた。 「――お前、俺に何をした?」 「何って……? 何のことだ?」 「お前に触れた途端、記憶にないはずの光景が幾つも目に浮かんだんだ。――戦場、死体の山、紫の目の男……あれはいったい何なんだ!?」 アキラは苛立たしげに叫んだ。シキは彼の怒りを受け流し、ゆるやかに首を横に振った。 「俺は何もしてない。俺だって、自分が何者か分からないくらいなんだぞ」 そうはいったものの、先ほど青年と接触した瞬間に走った衝撃のせいで、シキの中では記憶の一部が呼び覚まされていた。自分の本当の名も、今なら思い出せる。 自分はシキではない。『アキラ』だ。目の前の青年が名乗っているのと同じ名前である。というより、青年が演じているのは十八頃の自分――“アキラ”なのだ。彼もまた役を演じさせられている別人に過ぎなかった。アキラは彼の本当の名にも、心当たりがあった。おそらく、青年の本当の名は――『シキ』というのだろう。自分の知る“シキ”という男よりもかなり若いけれど、黒髪に紅い瞳、秀麗な面差しは“シキ”以外にはあり得ない。 *** シキは――いや、アキラは目の前の青年に思い出したことを打ち明けようかと考えた。けれど、頭の奥深く――自分でも説明できない何かが『それはいけない』と警鐘を鳴らしている。おそらく、いまだに思い出せない部分の記憶が関係しているのだろう。十八歳の自分がトシマからどうやって生き延びて二十代に至ったのか、なぜ今このとき過去をループしているのかというような事情が。 一方、青年――“アキラ”を無理矢理に演じさせられているシキは、アキラの態度にいっそう苛立ちを覚えたようだった。「言え、知っていることをすべて! 俺はこんなところでのんびりしている場合ではないんだ!」少しばかりシキの表層に浮き上がってきたnに敗北した記憶が、彼を焦らせているようだった。 ――気に入らない。 不意にアキラはそう思った。自分といるのに、シキはnのせいで焦燥を覚えている。早く戦場に戻らなければ、と考えている。そのことに何となく不満を覚えた。 ――せめて二人でいるときは、俺のことだけを見させたい。 そうして種をまくのだ。たとえあの男に囚われていても、最後の最後に〈彼〉が自分のもとに戻ってくるように。 不意にそう思って、アキラは間近にあったシキの顔に顔を寄せた。自然な上にもともと距離が近かったため、さすがのシキもとっさに拒むことができない。唇と唇が触れあう。 シキは抗おうとしたのだろう、即座に身体に力を入れた。もうじき不意打ちのキスの報復が来るだろう――アキラが覚悟した瞬間だった。 パチリ。 再び電流のようなものが走って、脳内に更なる記憶の断片が浮かび上がるのが分かった。――幾つもの銃口。凛とした背中。それに、自分の左脇腹から流れ出る血液。――ズキンとアキラは唐突に左脇腹に疼きを感じた。まるで記憶の断片の中で受けた負傷を思い出したように。だが、傷があるというほどはっきりした疼痛でもない。 構わずにアキラはシキの唇の隙間から舌を差し入れた。最初、シキは歯を合わせてアキラの舌の進入を拒んだ。しかし、すぐに諦めたように口を開く。アキラは好機とばかりに、シキの口内に舌を差し入れた。そこへシキの舌が絡みついてきて、最初に意図したよりも深い口づけとなる。 やがて、シキはゆっくりとアキラの肩に手を置いた。そこから緩やかに滑りおりて、コートを脱がせようとする。仕方なく応じているというような態度こそ装っているが、口づけは熱を帯びていたし、ひんやりした手は先を急ぎ初めていた。彼もまたアキラを望んでいることは、明らかだった。 ――それでいいんだ。 内心で満足の微笑を浮かべて、アキラはシキから顔を離した。衣服の内側に滑り込んで肌を辿るシキの手に身を任せながら、自分も彼を愛撫しようとシャツをまくりあげる。何気なく左胸――心臓より少し上の位置に唇を触れさせると、薄汚れた室内灯の下、シキの肌がそこだけぱっと薄紅色に色づくのが見えた。奇妙なことに、その箇所は花が開くように紅が濃くなり、次第に枯れて少し時間の経った傷跡になった。ナイフか何かでできた傷のようだった。 「これはいったい……」 アキラは驚きの声を上げた。が、シキはといえば案外、落ち着いている。 「非現実的な出来事は、すでに起こっている。今更、何があったとしてもおかしくはないだろう」 「そうかもしれないけど……。あんた、やけに落ち着いてるな」 「そう言うお前は年上のくせに動揺しすぎだ」 「普通、驚くだろっ。……というか、これ、痛くないのか?」 「あぁ。お前が口づけた瞬間はちくりとしたが、それだけだ。今は痛いというより……熱い」 シキの言う通り、傷が咲いた箇所は触れると皮膚の他の部分よりも僅かに熱を帯びているようだった。彼の傷をなぞりながら、アキラは自分がこの傷跡を知っているような気がした。いつ見たのかは、まだ思い出せない。だが、大切なものだったようにも思う……。 「なぁ、あんた。こんな風になるって知らなかったとはいっても、傷を付けてすまない。……お詫びに俺にもつけていいから」 アキラは自分のシャツを脱ぎ捨てた。シキはそんな行動を茶化すように片眉を上げた。「別に俺は傷があったところで構わん。それに、同じことをしたとしても、お前に同じことが起きるかどうかは分からないだろう」そう言いながらも、興味があるのかアキラのj左の肩先に口づけを落とす。そこは何も起きなかった。 だが、シキが場所を変えて何度か口づけていると、アキラにも同じことが起きた。左脇腹にキスした瞬間、紅く傷が咲いたのだ。途端、再びアキラの脳裏でイメージが幾つか閃いた。色あせていく紅の瞳、夜の闇、どこからともなく襲ってくる白刃――。 我に返ったアキラは自分の脇腹を見た。そこは辛うじて塞がっているとはいえ、本当にできたばかりの傷のように見えた。 「……痛むか?」 シキは眉をひそめて尋ねた。怒った顔をしているように見える。だが、そうではなくて心配しているのだということが、アキラには確かに伝わってきた。 「最初に少しだけ。今は平気だ。あんたと同じでちょっと熱いかな。でも、意外にこの感覚は嫌じゃない」 「俺はこの肩の傷が、何となく……あまり気に入らんがな。お前は痛みが好きなのか?」 「さぁ、どうだろう」 アキラは微笑して、シキを引き寄せた。そんな風に自ら望んで抱かれようとする自分が、少し不思議でもあった。 現代――とくに第三次大戦以降は男女のみならず、同性間での恋愛関係も少なくない。とはいっても、自分は望んで男を好きになるタイプではないだろうと思う。アキラはもともと他人への興味が薄い――というか、むしろひとりでいる方が気楽な性質なのだ。他人にべったりと心を預けるような恋愛関係やそれに伴う行為は、相手が男でも女でも不可能だろうという気がしていた。 だが、シキは違う。こうして触れ合うことが自然だし、触れてもっと彼を知りたいと思うのだ。彼だけが、他の誰とも違っている。 「もっと、つけてくれ」 アキラが強請るとシキは唇と指先で丹念に皮膚の表面を辿り始めた。触れて傷が咲く箇所もあれば、そうでない箇所もある。だが、そんなことはお構いなしにシキは時折アキラの肌を甘噛みしたものだから、やがてどこに傷が咲いて、どこをシキが噛んだのか分からなくなってしまった。いつしかアキラは我を忘れ、シキが与える感覚だけを夢中で追っていた。 (2013/12/01-08) 目次 |