明日、晴れたら、君と3






1.審神者




 一週間後、俺は国広と共に政府施設のゲート前にいた。といっても、普段、審神者が現世との行き来に使うゲートではない。別室に造られたそれは、あまり日常的に使われていないようだった。
 しばらくすると、ここで待つようにと言って部屋を出ていった先輩と近侍さんが、別の誰かを連れて戻ってきた。二振の刀剣−−三日月宗近と加州清光を従えた若い男だ。色素の薄い髪と瞳をした彼は、号を“空蝉”と名乗った。
「“空蝉”は、普段は本丸サーバーネットワークに関する仕事をしている。ただ、必要があれば他の任務に出てくることもあるんだ。今回みたいに」
「まぁ、審神者も号持ちも人手不足だからね」と、“空蝉”は肩をすくめた。それから、すぐに楽しげな表情になる。「ていうか、君、号持ち審神者の話、受けちゃうんだ? 六条のがだいぶ勧誘を渋ってたから、無理かと思ったけど。まぁ、そりゃあ、号持ちなんて聞こえはいいかもだけど、要は政府に率先してこき使われる要員だからねぇ」
「え? あ、あの……?」
「でも、六条のには注意してね! この人、本性は超厳しいから!」
「あの……先輩と“空蝉”さんは、親しいんですか?」
 馴染みらしい口ぶりに、俺は尋ねた。ら、“空蝉”は自分も後輩にあたるのだと説明する。ところが、当の先輩は顔をしかめて否定した。
「後輩なんてかわいいものじゃないよ。“空蝉”は同期の弟で、いまは悪友かな」
「はぁ……悪友さん、なんですね」
 悪友という響きに、“空蝉”は抗議した。けれど、二人の様子を見ているとそれっぽいので、ひそかに『悪友さん』と呼ばせてもらうことにする。
 その悪友さんがゲートをくぐりながら、今回の任務について説明してくれた。それによれば、今回の仕事はあるうち捨てられた本丸を浄化・解体することらしい。
 本丸はそれぞれ旧国名をつけられたサーバー上に形成された、一種の異空間だ。『サーバー』とはいっても、現世のインターネットのそれとは違う。インターネットを参考に政府の術者と技術者が共同で開発したのが、審神者たちの本拠地を擁し、かつ、過去への中継地点となる本丸サーバーネットワークである。各サーバーはネットワークで結ばれており、通信や交通が可能だった。今、歩いている鳥居の並ぶこの時空の通路も、本丸サーバーネットワーク上に形成されているものだ。
 本丸サーバーネットワークには、現在、審神者たちの霊力が少しずつ流れこんで、霊力の川が形成されている。常に霊力を循環させて、政府が観測することで、閉鎖空間になりやすい各本丸のモニターをしているのだ、と悪友さんは説明してくれた。また、霊力が常に循環することによって、穢れも溜まりにくくなるらしい。とはいえ、霊力の流れといっても、どうしても淀みは出てくる。俺たちが向かう本丸は、偶然にもその『霊力の流れが悪い場所』にあるのだとか。
「霊力の流れが悪い場所だと、なにか悪いことがあるんですか?」俺は尋ねた。
「いや、普通なら問題はないよ」悪友さんは軽い調子で答えた。そこで、声を低めて言葉を続ける。「審神者が健在で本丸が普通に運営されていれば、大丈夫。ただし、本丸の核は審神者だからね。たとえば、審神者の心身が変調を来していたら……そこは穢れを集めやすくなる」
「穢れを……」
「本丸は異空間だ。人の生み出した場所ではあるけれど、そこで起こることが人知を越えることもある」
 と、先輩が言う。人間が造ったのに、人間には把握不可能な事態が起こるなんて少し怖い。そう思っていたら、先輩の近侍さんが肩をすくめた。
「人間が生み出した手に負えない代物は、それなりにあるからなぁ。現代の兵器なんかは特にそうだろう。今さら驚くことでもないさ」
 話を戻すよと前置きして、悪友さんは問題の本丸の事情を話してくれた。問題の本丸は、どうやら審神者と刀剣男士が急に行方不明になったらしい。政府がそれに気づいたときには、本丸は立地条件の悪さから穢れが溜まりきっていたという。このまま本丸を放置すれば、ネットワークで繋がっている他の本丸に悪影響を及ぼしかねない。無人の本丸は、ひそかに潜入してきた歴史修正主義者の足場として使われてる可能性もある。早く対処しなければということで、今回、先輩と悪友さんに依頼が来たのだという。
 俺は少し不思議だった。無人の本丸の解体なんて、外からでもできるのではないだろうか。先輩たちがわざわざ本丸に行くのは、なぜなんだろう?
 そのことについて尋ねると、悪友さんが「これさ」と懐からあるものを取り出した。掌大の勾玉だ。それには、俺も見覚えがあった。正式に審神者になったときにもらえるIDカードがわりのようなものだ。形こそ勾玉だが、最新のマイクロチップが内蔵されている。審神者の霊力を記録して、本丸や政府施設のキーとして働くけっこうな貴重品だった。
「これは審神者用だけど、本丸の中心−−鍛刀部屋の祭壇にも、似たような勾玉が設置されてるだろ? あれは、審神者と本丸の機能を接続する装置であり、飛行機でいうところのブラックボックスでもある」
 つまり、本丸での出来事はある程度、祭壇の勾玉に記録されている、ということらしい。
「となると、本丸で何が起きたかを知る手掛かりとして、先輩たちが勾玉を回収するということですか?」
 俺の言葉に「惜しいなぁ」と首を横に振ったのは、悪友さんの三日月宗近だった。うちの三日月より、なお浮世ばなれした雰囲気を持つ彼は、おっとりと微笑してみせる。
「そなたはさすがに、年長の二人のようにすれてはおらんようだなぁ」
「? どういうことですか?」
「素直だということさ。……本丸の出来事を記録しているということは、万が一、それが敵方にて解析されれば、こちらの内情が分かってしまうということを意味する」
「あ、そうか」
「分かったかな?」
 なるほど、と思いながら、俺は頷いた。号持ち審神者の仕事とは、案外、地味なものらしい。そんなことを考えていると、先輩が振り返って「思ったのと違ったかい?」と尋ねた。その問いに、俺は素直に頷く。
「もっと、華々しいものだと思ってました」
「ははは。よく言われるよ。号持ち審神者というのは、最初、結局は政府が審神者や本丸に手を回せない分を、余裕のある審神者がカバーする――いわば互助的な存在として成立したから。今はそれが半分くらい政府に組み込まれて動いているだけだ」
 号持ち審神者の話、断りたくなった? そう尋ねられて、俺は首を横に振った。国広が傍らで意外そうに目を丸くする。あれ? ちょっと待って。もしかして、俺って、名声の目当てで号持ち審神者の話を受けようとしてると思われてた? それはちょっとひどいんじゃない、相棒。
 俺はじとりと国広をにらんだ。
「……国広、今回、俺に来た話にすごく反対してたのって、もしかして俺が名声目当てだと思ったから?」
「や。そんなことは……」否定しかけた国広は、しかし、俺の視線に負けたようだった。わずかにうなだれながら、小さく頷く。「実は少し思ってた。でも、その様子だと違うんだろう?」
「そりゃあ、確かに舞い上がっていないわけじゃないけどね。でも、名声とかのためじゃないよ」
 半年前、前の本丸が襲撃されたとき。敵を相手に戦う国広たちは格好よかった。俺も戦う彼らのためにもっと何かできたならいいのに――そう思った。
「……審神者は戦う必要はない。敵との戦闘のためには、俺たち刀剣男士がいる」
 国広が言う。その言葉に、俺は頷いた。
「分かってる。でも、俺、戦うみんなを見てて感じたんだ。お前たちにふさわしい主になりたいって。そのために俺ができるのは……何のために刀を振るうのか――お前たちに戦ってもらうのか、自分で考えて決めることだって思った」
 審神者の適性があるから、審神者になった。政府から任務が下されるから、それをこなす。……けれど、それだけじゃなくて、自分が何と戦っているのか、何を守っているのかを意識すること。言われたことだけじゃなくて、何をすべきか考えて動くこと。俺は霊力保持量も少ないし、先輩みたいに自分で戦えるわけでもない。だけど、国広たちにふさわしい主であれるように、やっていきたい。そう考えた結果が、号持ち審神者の話を受けることだった。
 そう言うと、国広は神妙な表情で深々と頭を下げた。「すまない。俺は主の刀失格だ」と謝る。いきなりの改まった態度に、俺はびっくりした。そりゃあ、ちょっとは国広のバカとか思ったけど。そんなに深刻に謝られるほどのことじゃない。謝らないで、と言おうとした俺は、そこでふと気を変えた。
「じゃあ、悪かったと思うんならさ」俺はニヤッと笑って、国広の肩のあたりを小さく拳で叩いた。「最初にした約束、覚えてるだろ? 俺は好き勝手するから、国広がしっかり護ってくれよな」
「分かってる」国広が頷いたときだった。
「――さて、そろそろ到着だ」と先輩が言う。見れば、鳥居の並ぶ道の先に光が見えていた。問題の本丸への出口らしい。と、そこで先輩の近侍さんが振り返った。
「国広、お前の主にしっかり加護をかけておけ。ここから先は穢れが強い。うちのや“空蝉”はともかく、お前の主には加護が必要だ」
「どうして先輩や悪友さんは平気なんですか?」
「そりゃぁ、君……」
 近侍さんがニヤッと笑いながら言う。その瞬間、国広が俺の両耳を塞いだ。見れば、先輩が真っ赤な顔で近侍さんの口を掌で覆っている。やがて、互いに目配せした先輩と国広はゆっくりとそれぞれ、近侍さんと俺から手を離した。
 けれど。
「過保護だなぁ。ヤることヤってるから、六条のと僕はそもそも加護が強いんだよってちゃんと教えればいいのに」
「“空蝉”っ!」
「主!」
 先輩と悪友さんの加州が叫ぶ。悪友さんは両手を軽く上げて、ホールドアップの姿勢を取った。……この人のこういうところが、先輩をして『悪友』と呼ばせる原因らしい。しかも、やや混乱した場の空気をものともせずに、悪友さんの三日月がおっとり笑う。
「そうさなぁ、この童に加護を掛けるなら、口吸いくらいがいいのではないか?」
「なっ……!」
「口吸い……!」
 俺と国広は顔を見合わせて硬直した。国広の顔が真っ赤だ。俺の方も頬がやけに熱いのを自覚する。けれど、こうしていても話が先に進まない。俺は国広に向きなおり、「ともかく、何でもいいから加護をかけて!」と促した。両目を閉じて、半ば自棄の域である。
 分かった、とためらいがちに答える国広の声。その直後、彼の手が俺の肩に触れる。いよいよか、と俺はいっそう固く目を閉じた。次の瞬間、さっと額にかかる髪がかきあげられて、そこに柔らかな感触が降ってくる。その直後、温かなさざ波のようなものが額からじわりと身体に広がっていった。
 びっくりして目を開ければ、国広は真っ赤な顔を隠すように俺に背を向けた。「さ、さっさと行こう……!」と、ギクシャクした動きで皆を追い越していってしまう。悪友さんと先輩の近侍さんが、それを面白がるみたいに声を上げて笑った。


***


 本丸の門をくぐると、すぐに灰色の曇天が目に飛び込んできた。庭の木々は立ったまま枯れて、まるで幽霊みたいな有様だ。あたりに満ちる空気が淀んでいるのが、はっきりと分かる。けれど、それは薄皮一枚を隔てたかのように、俺には届いていなかった。どうやら国広がくれた加護の効力らしい。
 この本丸がどれほど危険なのかは分からない。ただ刀剣男士たちのまとう雰囲気が、はっきりと変わっていた。普段は穏やかな先輩も、今は真剣な表情だ。悪友さんは真顔でもやはり少し笑っているように見えるけれど、それでも、先ほどのようにふざけてはいなかった。
 皆で先に進んでいくと、母屋が現れた。といっても、外観がかなり変化している。よほど自前で改装しない限り、母屋はいわゆる寝殿造りのような構造だ。けれど、目の前の建物はまるで天守閣を持つ城。しかも、ところどころ崩れかかったり、瓦が落ちかけたりしていて、ホラーゲームに出てきそうな有様だった。
「この城、前の審神者さんが自前改装したんでしょうか? ものすごく費用がかかってそうだけど……」
「いや。本丸の改装記録や通販の購入記録によれば、改装を依頼していないし、自分で資材を買ってやったわけでもなさそうだ」
 先輩が答える。それに重ねるように、悪友さんが付け加えた。
「――つまり、穢れや他の何かの影響で、本丸や母屋の姿が変質してしまったってことだね。これじゃ、鍛刀部屋を探すのに手間取りそうだなぁ」
 中の状況によっては、二手に分かれることになるだろう。そんな話をしながら、皆で母屋へ進む。母屋――というかもはや城だが――の入り口は開いていて、それもなんだか不気味だった。それでも、ともかく皆で中へ入る。
 玄関はガランとしているだけで、特におかしなところはないようだった。ただし、長年使われていないらしく、床に厚く埃がたまっている。ちょっと抵抗があるけど、土足で上がるしかない。少し進んでみるけれど、内部の構造が変化しているようで、どの部屋がどこにあるのかまったく分からなかった。
「――こりゃあ、ともかく上へ進むしかないな」と先輩の近侍さんがため息をはく。
「そうさなぁ」と悪友さんの三日月がおっとり頷いた。「確かに、天守閣の上層に力の気配を感じる。それが何かは分からぬが……ひとまず、それを目指してみるのがいいかもしれん」
 ところが、そう話していたときだった。悪友さんの清光がハッと顔を上げた。俺の傍らで、国広も本体の柄に手を掛ける。ゾワリ。俺自身も何か寒気のようなものを感じて身構えた。
 その直後。足下がグニャリと揺らいだ。何の変哲もないはずの木の床が、なにか生き物のように波打っている。俺はとっさに国広に手を伸ばそうとした。国広もこちらに向かって来ようとしている――けれど。不意に彼の横の壁が赤く輝いて、その直後、国広の姿は消えてしまった。
「国広っ!!」
 俺が伸ばした手は届くことのないまま、宙を引っかく。そのとき、足下にぽっかりと穴が開いた。どこかに掴まることもできず、穴へと落下する。と、それに気づいた先輩の近侍さんが俺の手を捕まえた。けれど、彼も踏みとどまることができないまま、一緒に落ちていく。
 そして、暗転
 次に気づいたとき、俺は見慣れぬ場所にいた。問題の本丸のどこからしいのだが、明らかに国広と引き離された玄関ではない。いったいここはどこなのか――。
「……目が覚めた?」
 声を掛けられて、俺は顔を上げた。見れば、悪友さんの清光が俺をのぞき込んでいる。近くで見ると、彼の目の中には三日月のそれに似た金の月が浮かんでいた。まとう空気も、うちの加州とはかなり違う。最初は個体差かと思っていたけれど、近くで見るとどうもそれだけではない気がした。
「ここは……?」
「玄関から、飛ばされたみたいだね。すっかり戦力を分断された。こっちに飛ばされたのは、あんたとうちの主、俺、それに“六条の君”の鶴丸国永だ」
「じゃ、国広たちは……」
 俺は壁に背をもたれて座った体勢から、身を起こした。廊下の少し離れた位置では、悪友さんと先輩の近侍さんが窓の外を見ながら何かを話し合っている。
 二人は俺が目覚めたことに気づくと、そばに寄ってきた。
「君、大丈夫かい?」近侍さんが尋ねる。
「はい」と俺は頷いた。「申し訳ありません、近侍さん。俺を助けようとしたせいで、先輩と離ればなれに……」
「構わんさ。何だかんだ言ったところで、うちの主は多少なら自力で戦える。それに、楽天的に考えるなら、主は君の国広や“空蝉”の三日月と一緒かもしれん。すぐに危うくなることもないだろう」
 そう言う近侍さんの顔に、強がりや無理の色はなさそうだった。白っぽい淡い金色の瞳に映るのは、主たる先輩への強い信頼。離れても、危機にあっても、相手なら切り抜けてくるだろうという確信は、主従というより己と対等の相手へのそれだ。いつか俺も国広と、形は違うにせよこんな相棒同士になれればいい、と思った。
「――鶴丸どのと話し合っていたんだけど、」と悪友さんが話題を変える。「どうやらここは天守閣の上層らしい。窓から外を見ると、少なくとも二階以上みたいだ。ここへ転移させられたことからも分かるように、母屋の中は空間が狂いだしている。無為に仲間を探すより、最上階を目指した方がいいということになったよ」
「たしかにね」と清光が頷いた。「うちの宗近は、上に何かがあると言っていた。おそらく、はぐれた皆も上を目指すはず」
「原因を何とかしなければ、ここからは出られないだろうからな」近侍さんも言う。
 こうして、俺たちは上への階段を探すことになった。とはいえ、廊下はあちこちねじ曲がっていたり、変な場所に行き止まりがあったり。探索はなかなか思うように進まない。悪いことには、落とし穴があったり、床の一点を踏んだ途端に槍が飛び出してきたりする。そのいずれも、先輩の近侍さんと悪友さんの清光が上手く対応してくれたけれど。しかも、時折、遡行軍らしき刀と遭遇することさえあった。
「いったい、ここはどうなっているんでしょう? 審神者はどうしていなくなったのかな。いきなり行方不明だったんですよね?」
「データ上ではそうなってるねぇ」悪友さんが携帯端末を見ながら頷く。
「……神隠し、とか?」
「ははは。神隠しはないよ」そう笑ったのは、悪友さんの清光だった。「現在、降ろされている分霊に神隠しをするほどの力を持つ個体は、基本的にいないんだ。審神者制度初期――それこそ、“六条の君”の鶴丸どのくらいなら、できるかもしれないけど」
「おいおい、俺だってできないさ。俺はもう、本霊から縁を切られた身なんでな」と先輩の近侍さんは肩をすくめた。
「縁を切られたってどういうことです?」
「言葉どおりさ。うちの主は黄泉と繋がってるんでな。主と情けを通じれば、俺も黄泉に繋がりができる。それで、本霊にもう帰ってくるなと言われたんだ」
「えぇっ!?」
「そこまで驚いてもらえると、嬉しいな! ――付喪神はそもそも、寿命がない。本来、黄泉とは関わりのない存在だ。仮に俺が本霊に戻れば、本霊にも黄泉との繋がりがえきる。そうすれば、もう今までとは別の存在になってしまうからな。本霊の対応はもっともな話だし、俺も還りたいとは考えていなかった」
「や、でも……そんな……」
 戸惑う俺を見て、近侍さんは面白そうに笑っている。悪友さんは落ちついているし、彼の清光も冷静な表情だ。
「っていうか、刀剣男士は別に神隠ししたいわけじゃないんだよね。皆、人間好きだし、人間は現世の理の中で生きるのがいちばん美しい姿だと思ってるし。神隠しは……まぁ、できなくたって不便はないんだ」
「へぇ。そんなものなんだー」
 相づちを打ちながら、俺たちは廊下の角を曲がる。そこに、上に続く階段があった。




2.山姥切国広



 国広が気づいたとき、そこは庭だった。主の姿はどこにもない。代わりに“六条の君”と“空蝉”の三日月宗近がのぞきこんでいる。
「主は……」
「分断されたようだな」三日月が答えた。
「すまない。でも、国広どのの主には、うちの国永がついてるはずだ。国永が必ず、君の主を護るから」
“六条の君”は自分の刀剣と離ればなれになったのに、落ち着いた態度だった。膝を伸ばして立ち上がり、天守閣の様子をうかがっている。また一からやり直しかぁ、などとため息を吐く姿に動揺はない。
 いくら戦えるといっても、不安ではないのか。国広は目を細めて彼の背中を見つめた。と、振り返った彼と視線が合う。
「ん? どうかしたかい?」
「いや……。あんたは近侍と離れて、不安じゃないのかと思って」
「不安はないな。国永は私と離れても、必ずこの状況を切り抜けてくる。私は私で、今できることをするだけだ」
 そういう“六条の君”の眼差しは確信に満ちている。その態度が、国広には信じられなかった。もしもの話だ。分断されているうちに、鶴丸国永が折れたら? あるいは、“六条の君”が生命を落としてしまったら?  永久に相手が失われてしまうとしたら、恐ろしくはないのか。
 そう尋ねると、“六条の君”は静かな笑みを浮かべた。
「怖くはないよ。国永は私の護身刀だから、生命を預けてある。何があっても、国永は私の元に戻ってきて私を護る。……たとえ、不運にしてそれが不可能だとしてもいいんだ。なぜなら」
 ――相手に生命を預けるというのが、私たちにとっては『愛している』と伝えるのと同じことだから。
 迷いのないその言葉に、国広は目を丸くした。恋仲になった人と刀剣というのは、どこでもこんな風なのだろうか。思わず、“空蝉”の三日月へ目を向ける。その視線に三日月は苦笑してみせた。
「“六条の君”と鶴丸に関しては、事情が特殊なのでなぁ。皆が皆というわけではないだろうが」
「しかし、あんたも“空蝉”と離れていても動揺していないようだが」
「俺は引き離されたが、おそらく清光が主の傍にいるはずだ。だからさ。……だが、そうだなぁ。俺もこうした状況で、主を過剰に心配はせんなぁ」
「不安ではないのか?」
 国広の問いに、三日月は優しい目をして首を横に振った。
「うちは、俺の他にも特に清光が主と濃い縁を結んでいる。だがそうでなくても、刀剣男士は現在、顕現可能なだけで四〇振以上だ。皆が皆、主を護ることに意識を傾けるより……もっと大切なことがあるだろうと、俺は考える」
「もっと……大切なこと?」
「主が何のために俺たちを遣うのか。主の意を汲んで、斬るべきものを斬ること。審神者が数多の刀剣を顕現させることができるのは、そのためなのだろう」
 華やかに微笑む三日月宗近は、まごうことなき刀だった。美術品ではなく、敵を斬りさく鋭さを持った刀。
 国広は拳を握りしめた。己はいまだに、主とどう接するのか、己はどうあるべきなのか、答えを見つけきれていない。けれど、負けたくないと思う。主がここにいないとしても、彼に恥じぬ刀でありたい――。そう念じながら、国広は歩きだした。“六条の君”と三日月を追いこしてから、彼らを振り返る。
「行こう。主たちに会えるまで、何度だって城に入ってやる」





3.審神者


 どれほど進んだだろうか。俺たちはどんどん上を目指す。二つ目の階段を上ると、そこはこれまでとは空気の異なる空間だった。どことなく不穏な気配はあるものの、はっきりした穢れはないようだ。しかも、何か強い気のようなものを感じる。
「ここは……」
「ここが最上階みたいだねぇ」悪友さんが言う。
「でも、勾玉はどこにあるの? はっきり気配が感じられないし、祭壇ぽいのもないんだけど」
 悪友さんの清光が、周囲を見回しながら言った。確かにその通りだ。これまでの建物内部と違って、この階はガランとしている。部屋もなく、まるで大広間みたいだ。
「どれ。何もない場所だが、少し手分けして探索してみるか」
 先輩の近侍さんの提案で、俺たちは二人一組に分かれた。近侍さんと俺、清光と悪友さんのペアだ。それぞれ反対方向に分散して、壁際を丹念に調べていく。とはいっても、棚や箪笥の類もないので、本当に見て回ることしかできない。近侍さんは発見したものを勝手に触ってはいかないと言っていたけど、そもそも触るものがないくらいだ。
 本当にここに何かあるのだろうか。
 そう思ったときだった。
《――……テ……。ココ……ル……》
 微かな声のようなものが、意識に触れた。とはいえ、それは明確な音ではない。直接、意識に語りかけてくるような不思議な声音だ。俺はふらふらと声のする方――ガランとした部屋の中央へ歩いていった。本当なら、近侍さんの言いつけを守って、異変を知らせるべきだったのだろう。けれど、ここで誰かに訴えたら、声は消えてしまうのではないかという気がしていた。
《――ダレ、カ…………》
 もうすぐ行くから。助けるから。
 ふらふらと何もない部屋の中央へ、俺は進んでいく。
 近侍さんが気づいて、声を上げるのが意識の遠くに聞こえた。けれど、止まれない。俺は何もない虚空に手を伸ばし――その瞬間、呼応するように宙に細い光の筋が生まれた。金色の眩しい光が、俺を包みこむ。悲しみ、怒り、苦しみ。声が聞こえる。

『――私はもう、ダメだから……せめて、皆だけでも……』

 女性の苦しそうな声。同時に映像がフラッシュバックしてきた。のどかな本丸、楽しく過ごす審神者と刀剣たち――本丸への敵襲、折れた数振の刀、傷ついた審神者。あまりに濃い穢れに、審神者は残りの刀剣たちを強引に刀に戻した。唯一、残った重傷の近侍と共に、刀たちをひとつ部屋に閉じこめて、彼女はその扉の前で――。
 そこで俺は気づいた。
 この本丸の審神者は自らの死を予感して、刀剣を守るために一つの部屋に封印した。初期刀と自らの魂を封印の力に使って。敵襲を受けた本丸は穢れたままになり、深部にある封印には誰も気づかない。審神者と初期刀の魂がずっと、封印を守ってきたのだ。

 ――苦シイ、痛イ、悲シイ……。
 ――守ラナクテハ。皆ヲ守ラナクテハ。
 ――誰カ、気ヅイテ。

 ――ドウシテ誰モ、気ヅイテクレナイノ?

 感情に混じる怒りの成分が強くなる。こちらの意識まで持っていかれそうだ。そうしたら、どうなるんだろう? 恐怖を覚えながらも、俺は必死に手を伸ばした。今の自分にできることを、懸命にしようとする。封印で視覚的にも隠された部屋の扉を、手を伸ばして開く。
 途端、封印の役目を終えて自由になった審神者と初期刀の魂の記憶が、俺に流れ込んできた。“俺”の意識が、押し流されてしまう――。




4.山姥切国広



 ようやく最上階にたどり着いた国広が目にしたのは、主が部屋の中央で光に包まれて倒れる光景だった。最後の最後に主が力を振り絞ったのか、何もなかったはずの部屋の中央に現れた扉が開いている。中には祭壇とその前に二〇振ほどの刀が散らばっているのが見えた。
「主!」
 国広は慌てて、主に駆け寄る。主はぐったりして意識がないものの、きちんと脈はあるようだった。ともかく、生きている。思わずほっと息を吐く。
 けれど。
「まずいことになったな」
 国広の後ろにいた“六条の君”が呟いた。振り向けば、彼は階下へ続く階段をにらんでいる。そこから、黒いモヤのような穢れがモクモクと湧きあがっているのが見えた。“六条の君”が言うには、この本丸の核たる勾玉と祭壇の前にあった刀剣は、前任とその近侍の封印によって清らかなままだという。穢れがそれを浸食して、隙あらば乗っ取ろうとしているのだとか。
「――僕は祭壇で祈祷をする。上手くすれば、本丸から穢れを祓えるだろう」“空蝉”が清光を伴って、祭壇の部屋へ入っていく。
「私はそれまで結界を張る。三日月宗近さま、国永。手伝ってもらいたい。――国広どのは、君の主の傍に。彼の意識を呼び戻してくれ」
 そう言って、“六条の君”は開いた扉から少し離れて、床に座した。彼の鶴丸と“空蝉”はそれぞれ一定の距離を置いて立つ。“六条の君”が低く祝詞をとなえだすと、三人を頂点として扉を囲む三角形の結界が形成された。その外側は、どんどん瘴気があつまってきて真っ黒になっている。まるで煙に巻かれているかのようだ。
 国広はぐったりした主の身体を抱きしめた。と、不意に主がカッと目を見開く。その目は異様な輝きを帯びていた。
「主……?」
「殺さなきゃ」
「何?」
「敵。歴史修正主義者。ぜんぶ、ぜんぶ、殺さなきゃ」
「どうした、主」
「だって、国広。許せないよ」そういう主の目の縁に涙の滴が膨れ上がり、決壊して頬を伝い落ちる。後から後から流れる涙を、主は拭いもしなかった。「許せない。あいつらは、この本丸を襲った。審神者さんは、無事な刀剣を守るために自分の魂で鍛刀部屋を封印してたんだ。ずっと、ずっと……」
 国広は主の目に浮かぶ憎悪を見ていた。
 いつも、戦の場にはこの感情があった。刀の頃から、国広はそれを目の当たりにしてきた。戦いの場にある者としては、憎悪を抱くことは決して悪いことではない、はず。だが、と思う。曇りのない太陽のような、主の笑顔を思い出す。
 憎悪は、たぶん、主の性質とは相入れない――。ほとんど衝動的に、国広は主の頬を両手で包み込んだ。今は憎悪の色に染まった主の目を見据えて、語り掛ける。
「主、正気に戻れ。たとえ戦いの場にあるとしても、主の役目は憎むことじゃない」
「どうして? だって憎まなくちゃ、戦えない」
「違う。……主が“六条の君”のような男なら、きっと、憎悪を己の糧として燃やして、先へ先へと駆けていけるだろう。だが、主はそうじゃない。上手く言えないが、主は日向で顔を上げていなければならないんだ」
「国広、国広。だって、こんなに辛いことを知って、敵を憎まずにはいられないよ。俺の中に、ここの審神者さんがいる。辛い、苦しい、守りたかったのに、ってずっと泣いてる。彼女のこの苦しさを、なかったものにはできないよ」
 国広は親指で主の頬を拭った。それでも、涙は後から後から頬を濡らしていく。己はこの優しい主が少しでも多くのものを守れるように、刀を振るいたいのだと思った。憎悪のためではなく、優しさのために。何かを傷つけるためでななく、護るために。
 だから。
「その審神者の苦しみや悲しみを、なかったことにはできない。だから、主は、号持ち審神者の役目を受けるんだろう? 悲しむ者を減らすために。俺はいくらでも主に振るわれてやる。だから――」
 どうか戻ってきてくれ、俺の太陽。
 願いを込めて、己の唇を主のそれに重ねた。わずかに舌先に涙の味を感じながら、ゆっくりと主に己の気を吹き込んでいく。わずかな間の後に、主は意識を失ってことりと国広に寄りかかってきた。




5.“空蝉”


 祈祷をしていた“空蝉”はハッと我に返った。祭壇の勾玉がどうも本丸の機構以外にも繋がっているように感じたのが、今は途切れているようだ。どうやら、山姥切国広の主に宿っていた審神者の魂が、寄り代となっている勾玉に戻ってきたらしい。
 そう。この本丸の審神者は自らの魂を、鍛刀部屋の封印に使った。生命の失われた肉体は滅び、魂の宿る場所がなくなったとき、審神者の魂は本丸の中枢である祭壇の勾玉と強く結びついてしまったらしい。遡行軍が鍛刀部屋に近づかないよう、本丸の母屋は複雑に変形して封印された刀剣を護っていた。
 本来の任務ならば、このまま祈祷を終えて勾玉を外せばそれで終わる。しかし、勾玉と審神者の魂が癒着してしまっている現状、ただ祭壇から勾玉を外して機能停止したのでは、審神者の魂が消滅する可能性が高かった。それで、ためらっていたのだ。
 だが、今、審神者の魂が勾玉に戻ってきた。彼女を護るように、近侍の霊もつき従っている。
 ――今なら。
“空蝉”は両手に自身の霊力を集めた。彼の霊力は五行陰陽の“金”の性が強い。金属は熱や電気を伝導することから、“繋がる”性質を持つ。これは、逆転させれば“分離”することもできるということだ。霊力を帯びた手で、“空蝉”は勾玉に触れた。そこに癒着した審神者の魂を、そっと撫でて分離する。
 ボロボロになった魂。もはや単身では、黄泉の坂を下れるか分からない。そう危ぶんだとき、近侍の霊が寄り添うように審神者の魂に寄り添った。近侍の霊は、本霊に戻る素振りも見せず、審神者の魂と共に黄泉へ消えていく。
 その刹那。
 カチカチカチ。ガチャガチャガチャ。
 鍛刀部屋で封印されていた無傷の刀剣たちが、一斉に刃鳴りを上げた。去っていく審神者の魂に、別れを惜しむかのように。





6.審神者


 無事に祭壇の勾玉の回収が終わって、俺たちは本丸に戻った。といっても、俺は最後の方はあまり意識がはっきりしなかったんだけど。
 ともかく、先輩から聞いた話では、本丸は無事に解体。勾玉に記録されていたデータは解析が始まっているという。審神者の魂が守護していた無傷の刀剣たちは、政府の術者がそれぞれの意向を聞いて――なるべくなら、新たな審神者の下で戦ってもらう予定らしい。先輩の近侍さんが言うには、おそらく断る刀剣はいないだろう、ということだった。
「――己の主が生命どころか魂をかけて護ってくれたんだ。刀剣なら、必ず敵を討って元の主に報いたいと思うだろうさ」
 ……ということらしい。
 そんな後日談とは別に、俺は今、非常に難しい状態にあった。国広の顔をまともに見ることができないのだ。例の本丸で、国広が審神者さんの魂に引っ張られた俺を戻すために、口づけで気をくれた。そのことは何となく覚えているし、感謝している。
 が、どうしても、意識してしまう。
 必要があったとしても、キスはキスだ。しかも、女々しいかもしれないが、あれは俺のファーストキスだった。
 別に国広が嫌いなわけじゃない。嫌だったなら、事故チューノーカンで忘れることができただろう。むしろ、嫌悪感がまったくなくて、国広の顔を見るとドキドキしてしまうのに困っている。
 お互いにお互いの顔が見られず、仕事に支障が出るので近侍は小夜に頼んだほどだ。それでも、偶然、廊下なんかで行き合うと、蛙と蛇のにらみ合いみたいになってしまう。
「く、く、国広……! おはよう……!」
「あ、あぁ……! 主も、元気そうだな……!」
「う、うん…………。出陣! 博多湾、が、がんばってね……!」
「だいじょうぶ、だ。もう……あんまり、刀装もはがれないから……」
「――二人とも……そろそろ普通の距離で話したら?」
 五メートルほど距離を置いて話す俺たちに、小夜がため息を吐く。だけど、そんなの――。
「ムリッ!」
 叫んで俺は踵を返した。全速力で廊下を走って逃げる。自慢ではないが、俺はこういう方面に関しては頑張れない人間なのだから仕方ない。

 ……仕方ないと思っていたのだけれど、さすがに五日間、まともに国広の目を見ないと、今度は寂しくなってきた。やっぱり自慢ではないけれど、俺は国広の目がすごく好きなのだ。そろそろ、欠乏症が起きそう。
 任務から戻って五日目の夜。ちょうど政府からある連絡が来たというきっかけもあって、俺はようやく決心した。部屋を出て、国広の部屋へ向かう。ふすまごしに「ちょっと話せる?」と尋ねると、ガタン! とかバタバタ! とかやたら慌てた物音がして、ものすごい勢いでふすまが開いた。
「主!」
「……久しぶり、国広」
 実際には毎日、会っているのだけれど、ちゃんと目を見るのは久しぶりでそう挨拶する。寝間着姿だった国広は布を深く被るような動きを見せた後で、今は被っていないと気づいたようだった。少しバツが悪そうな顔で、けれど、俺と視線を合わせる。
「主……どうしたんだ?」
「国広の顔、ちゃんと見たくなったんだ。話もあって」
「廊下は冷えるだろう? 入るか」
 国広に言われて、部屋の中へ入る。向き合って座った俺は、とりあえあず政府からの報せについて話した。
「政府から連絡が来たんだ。この間の任務も問題なかったし、正式に号持ち審神者として働いてほしいって。号は、今まで仮に使っていた“夕霧”をそのままで」
「そうか」国広は表情を改めて、真剣な顔になる。「ならば、俺もこの本丸の他の仲間も、主を支えるまでだ。俺たちは主の意思を映して刀を振るう。心のままに、使ってほしい」
「ありがとう」
 どこまでも真っ直ぐな国広の言葉に、俺は思わず笑顔になった。国広が、それに仲間たちがいるから、俺は審神者でいられる。もっと多くのものを護ろうと、手を伸ばすことができる。そのことに、言いようもない感謝を覚えた。
 そして、それとは別に――。
「ねぇ、国広。この間の、ことなんだけど……」
「っ……。その……いきなり、口吸いしたことは……すまないと思っている……」
「ううん。そうじゃ、なくて……」
 言わなくちゃ。今、言わなくちゃ。必死に自分を叱咤して、俺はうつむきそうになる顔を上げた。国広は真っ赤な顔をして、視線を伏せている。
 俺は近づいて、その両肩に手を置いた。
「俺っ……この本丸の皆が大好きだ! 俺を審神者にしてくれて、ありがとうって思ってる! でも……贔屓はいけないんだろうけど、俺……皆とは別に、国広がいないとダメなんだ」
「主……」
 国広がびっくりしたように顔を上げて、俺を見つめる。視線が絡み合った。今は燭台の灯りを映して、夕焼け空みたいな国広の青い瞳が美しい。
「国広の空みたいな目を見てたら、俺、自分が正しい判断をできる気がする。長い間、お前の目を見なかったら、たぶん、俺、いつか空が晴れるんだってことも忘れてしまう。だから」
 ――どうか、お前のこと、好きでいるのを許して。
 そう口にした瞬間、国広の顔が近づいてきて、互いの唇が重なった。




2015/10/18

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