鶴丸女士化騒動顛末1−2






3.後輩


「スレ立て、ありがとう」
 声を掛けられて、俺は顔を上げた。見れば、悪友さんが立っていた。ついさっき、ゲートを抜けてこの政府施設へ駆けつけたらしい。彼の傍らには、三日月宗近と加州清光がいた。
「悪友さん……。すみません。あれが最善なのか悩んだんですけど、迷う暇も相談する余裕もなくて」
「いや、君は正しい判断をしたと思う。スレを見たら『先輩』――“六条の君”は悲鳴を上げるだろうけどね」
 君もなかなか老獪になってきたね、と悪友さんがいたずらっぽく笑う。それに、俺は少しホッとした気分で笑いかえした。
 本当は近侍さんが女性体になったことを、さにちゃんにスレ立てするつもりはなかった。だって、お世話になった相手が困っているのをネタにするなんて、失礼だし。けれど、スレ立てをしなければと考えたのは、女士になった近侍さんが第三者――つまりナンパ師に接触したせいだった。
 周囲に騒ぎを気取られないためには、あの場で彼に口止めする暇はなかった。もし、彼が政府関係者や政府の特命を受ける役目を負う審神者――いわゆる“号持ち”の審神者であったなら、いくらでも後から連絡することができたはずだ。というか、政府関係者や号持ち審神者ならば大半は“六条の君”という号を持つ先輩と面識があるから、すぐに事情を理解してくれただろう。しかし、ナンパ師はそうではなかった。実験施設では、ランダムな本丸をモニターに選んで試験的な模擬戦を実施することがある。ナンパ師は、そのランダムに選ばれた本丸の審神者だったようだ。となると、連絡の付けようがない。
 もし、悪意はなくとも、ちょっと面白いことの好きな者が、女士化した刀剣男士なんて興味をそそる存在を見つけてしまったら、どうするか。掲示板やsanitterなんかで、ちょっと知り合いと話してみようかなと考える可能性はある。――というか、俺だって事情を知らなければ悪意もなくそうするかもしれない。
 しかし、近侍さんが女士化した原因は政府の呪術実験である。場所や状況を詳しく書かれて、ネットワーク上に妙な形で実験事故のことが流出したらどうなるか。まずい形で話に背ビレや尾ヒレがつくくらいなら、こちらから、こちらの望む形でフェイクを入れた情報を流してしまう方がいいのではないか――。今回のスレ立てには、そうした意味があった。
 正直、迷いはしたのだけれど、悪友さんも話を聞いてさにちゃんでスレ立てしようとしていた。衆目を集めそうなえっちなネタで、スレを少し引っ掻き回してくれたし。それに、例のナンパ師もスレ立てするつもりだったと言いながら俺の立てたスレッドに現れたのだから、俺の行動もあながち間違いではなかったらしい。
「それにしても、悪友さん、先輩のことけっこう好きなんですね。ナンパ師の本丸解体するぞなんて脅し」
「けっこうってか、僕はあの人のこと好きだよ? いつもあの人をイジるのは、あの人がちょっとでもベテランの仮面を脱いでられるようにって配慮」
 悪友さんの言葉に、彼の傍らの清光が首を傾げた。金色の月が浮かぶ紅い瞳をくるりと回す。
「主のそれ、すっごく聞こえはいいけど、堂々とイジる宣言だよね」
「まぁ、よいのではないか? お互いにじゃれる相手がいる方が」
「……でも、今回は先輩、けっこう意気消沈してるんですからね。景気づけとか言って、あんまりイジらないでくださいよ」
 特に近侍さんネタでは。
 そう付け加えると、悪友さんは「後輩はいい子だねぇ」と俺の頭を撫でた。それから、三日月と清光を従えて歩きだす。向かう先は先輩と近侍さんがいる一室だ。彼らは気の乱れが認められたのと、さまざまな調査のために再び施設の一室に留まることを余儀なくされていた。特に近侍さんの気の乱れはひどくて、今はうちの国広が彼に(彼女に?)ついて気のペースメーカー代わりをしているところだ。
 悪友さんが呼ばれたのも、先輩と近侍さんの気の乱れを調整するためだった。悪友さんの魂は、五行陰陽で言うところの“金”の性質が強い。金とは金属の意で、金属が電気や熱などを伝導するように、“繋げる”性質を持つ。政府術者の解析によれば、先輩と近侍さんの縁を通じて行われている霊力供給が乱れているので、それを整えてやれば二人とも気の乱れが落ち着くだろうということらしい。そのために呼ばれたのが、“空蝉”という号を持つ悪友さんだったのだ。
 悪友さんたちが部屋に入っていった後に、国広が戻ってきた。
「近侍さんはどうだった?」
「大丈夫だ」国広はそう言いながら、廊下に置かれたソファの俺の隣に座った。「やはり、顕現した姿に影響を受けたせいで気の巡りが悪いのは、仕方がない。だが、それも“空蝉”どのが処置すれば、正常に戻るだろう」
「そっか。……俺が『この後、仕事がないならうちの本丸に遊びに来ませんか』なんて先輩を誘ったから、こんなことに……。しかも、近侍さんが変化した原因になったのって、俺が立ち会った実験だし、申し訳ないよ」
「もう気に病むな。あの二人も主が気にすることではないと、何度も言っていただろう? ただ、問題は……あの二人だな」
「先輩と近侍さん? ……そうだね。先輩、なんで近侍さんの目、見れないのかなぁ。――国広はさ、俺が中身は俺のままで、身体だけ急に女の子になっちゃったらどうする?」
「驚く」
「や、驚くのは驚くだろうけど。そうじゃなくて、顔、見られなかったりする?」
「――……たぶん」
 国広はちょっと考えた末に、頷いた。なんだかその頬がちょっと赤い。ちょっと待って、何を想像したの。内心でツッコミしつつ、俺はさらに尋ねる。
「えー、何で? 女の子だろうが、俺は俺だよ?」
「そうは言うが、主。俺と主だって、恋仲になる前の数日はお互いに顔を見られなかっただろう? 忘れたわけじゃないだろう?」
 あ、そういえばそうだった。俺も国広に告白する前の数日は恥ずかしくて、避けていたものだった。国広も俺を避けていたから、お互いさまだけど。
「それに」と国広が言葉を続けた。「“六条の君”の態度も、俺には理解できる。相手のことが大切で、大切すぎるから触れると壊してしまいそうで、触れられないんだ。……とくに、相手が自分より脆いものだと感じるならばなおのこと」
 きっと国広はそうなのだろう。俺が人間だから、結ばれるまでの間、国広はとても――いっそ、臆病なほどに大事にしてくれた。結ばれた今でもそう。彼はときに、壊れものに対するように、俺に触れる。そのことに対して、もの足りなさや不安はなかった。国広がためらいがちに触れるなら、俺がその手を掴んで握りしめればいいのだと知っているから。
 先輩にとって、刀剣女士になった近侍さんは、もしかしたらひどく脆い存在に見えているのかもしれない。あるいは、穢すことができないくらい神聖なのか。でも、それは近侍さんにとってかわいそうだと思う。近侍さんは、たぶん、他の何にでも誰にでもなく、先輩にだけより添って飛んでいたいのだろうから。
「俺は……俺が近侍さんの立場なら、ちゃんと触れてほしいよ」そう言いながら、俺は国広に身を寄せて、彼の肩に頭を預けた。と、おそるおそるという風に国広の手が俺の肩に回る。「だって、愛しい相手に触れられたくらいでは壊れたりはしない。仮に、その程度で壊れるとしても、それならそれで本望。バラバラになって、粉々に砕けて、塵になって散ってしまったとしても、後悔なんかしない――俺なら」
 分かってる、と呟いて、国広は俺の肩を抱く手に少し力を込めた。壊れたって後悔しないという相手だからこそ、こちらは大切にしたいんだ、なんて言う。それじゃ堂々巡りだよ、と俺が笑ったときだった。
「おーい、“夕霧”!」
 先輩たちのいる一室から悪友さんが呼ぶ。俺も来いということらしい。俺は立ち上がって、国広と共に歩きだした。






4.鍛刀師(※R-18注意)


 まったく、大変な一日だった。呪術事故に遭遇した経緯の調査に付き合ったり、数種類の解呪を試されたり。国永との間にあった霊力供給の乱れは、悪友――“空蝉”が直してくれた。けれど、国永が今も女性の姿のままなせいか、やっぱり落ち着かない。
 そう――落ち着かないのだ。
 国永と一緒に官舎に戻ってきて、夕食を取ったけれど、どうもいつもと勝手が違う。疲れているであろう彼(あえて彼ということにする)に風呂を譲って、私は夕飯の片づけをしていた。ら、風呂から上がってきた国永はいつもの白い寝間着姿だった。
 いつもの、ということは当然、作りが大きいわけで。刀剣男士であっても儚げな容姿とは裏腹に豪快な国永は、このときも普段のように大雑把に帯を結んでいた。当然、作りの大きい寝間着の胸元は開いて、小ぶりながらも確かな胸の膨らみが見えてしまっている。
 私はせめて「前をもっときちんと合わせて」と頼んだが、彼は機嫌を損ねたようだった。もう眠るのだからあまり合わせをキツくしては苦しい、と拗ねた顔で言って、部屋へ入っていく。疲れている相手にあまり細かいことを言うのはよくなかった、と私は少し反省した。けれど、やはり女性の身で同じ部屋に住まうのだから、こちらとしては配慮してほしい部分もあるのだ。
「……だって、何か間違いがあったら、困るし……。っていうか、間違いなんか起こすつもりはないけど……」
 洗いものを終えて、ひとり湯船に浸かりながら呟く。恋仲だからって、さすがに今の状態の国永を誘ったりはしない。
 清光と夫婦だった頃は彼を抱いたり、抱かれたり、いちおうどっちの役もしたことがあるけれど。国永と恋仲になってからは、何となく彼が抱いて私が抱かれるのが普通になっていた。だが、国永が女性の身体である今、間違いが起きたら――それはつまり、私が彼を抱くということになる。普段、合意でそうなるならまだしも、今の国永にそんな無体を働くつもりは、断じてなかった。なぜなら、身体を拓かれるのは、実のところけっこう恐い部分もあると知っているからだ。始めてなら、なおのこと。
「間違いを起こす気はないけど……妙なことになる前に国永が元に戻ったらいいなぁ……」
 望みは薄そうだけれど、と私はため息を吐いた。
 風呂から上がって部屋に入ると、その直後、ドアがノックされた。国永だ。「主、もう眠るのか?」と声が聞こえる。もう眠るよと返事すると、ドアが開いて彼が中に入ってきた。部屋に戻ってから寝間着の前をきちんと合わせて、丈を帯で調整しなおしたらしい。先ほどよりも寝間着はきっちり着ている。
 国永は決然とした表情でズンズン部屋の中へ入ってくると、私のベッドに上がった。
「よし、寝よう」
「いや、よくないから! 自分の部屋で寝てよ」
「嫌だ」
「嫌だ、じゃない」
 お説教をしようとしたところで、私は国永の表情が頑なに強ばっているのに気づいた。何となく叱るのは違う気がして、ベッドの彼の隣に腰を下ろす。小柄になった国永は、そうすると私より少し目線が低いくらいだった。恥ずかしいけれど、頑張って視線を合わせる。顔の造作はさほど変わったように思えないけれど、それでも、どこか印象が柔らかくなっていた。眼差しは少し柔らかくなり、唇も女性らしくふっくらとしている。白い頬だって、シャープな男の輪郭ではなくて、ゆったりと優しい弧を描いていた。
 あぁ、なんて美しいのだろう。ため息のようにそう思う一方で、ひどく寂しい。だって、目の前にいるのは私の知る国永であって、そうじゃない気がする。
 私がじっと見ていると、国永はなぜか少し頬を染めて目を伏せた。散々、自分を見ろと言いながら、目を合わせたら逸らすってどういうことだ。ツッコミたいけれど、我慢した。
「国永、聞き分けてほしい」
「嫌だ! 主が……主が傍に置いてくれないから、主が足りない」
 ギュッと抱きついてくる身体はどこもかしこも柔らかい。しかも、常にない甘い匂いが肌から香る。私は彼の背に手を回して、なだめるようにさすった。
「ごめん。でも、お前は今、女性の姿だから。一緒に寝て何か間違いがあったら困る」
「間違いって……目合のことか? 俺は別に構わないぞ! 主が触れてくれるなら、望むところだ」
「ダメだ。……ていうか、国永が知ってるかは分からないけど、受け身ってけっこう恐いんだよ。抱かれてるとき、相手が刀を抜いて刺してきても、真っ最中だったらたぶん逃げられない」
「……普段、主は俺ならぜったい無体を働かないと信じて、受け入れてくれているということか?」
「そうだけど、それだけじゃなくて。お前になら、真っ最中に刺されても構わないって思えるから、抱かれてる。……女性がどう思いながら相手に抱かれるのかは知らないけど、受け身って覚悟がいるんだ。だから、国永にはそう簡単に、抱かれてもいいって思ってほしくはない」
 だって、お前は私の護身刀で、最後の、唯一の刀だから。万が一、何かの拍子に失われたら、私は戦えなくなる。
 そう告げたときだった。不意に国永は身を引いて床に降りた。私を突き放すように離れた彼は、燃えるような目でこちらを見据えた。彼の手が、素早く帯を解く。寝間着の下は素肌で、開ききった着物の合わせ目から胸の膨らみや髪と同色の下生えがのぞいていた。
「主が俺に触れないなら、もういい。……せっかく面白い身体になったんだ。ちょっと、触って遊んでみるさ」
「国永、何を……」
 私が尋ねる間もなく、国永は自分の胸をわし掴んだ。容赦ない力で掴んだらしく、巨乳というわけでもない胸の肉が指の形に沈む。私はその光景に、興奮するよりも顔をしかめた。刀剣男士の握力は、言うまでもなくけっこう強い。女士になった国永がその何割出せるのかは分からないが――あの感じだと、けっこうな握力で胸を握ったはずだ。
 痛いだろう、絶対。
 そう思ったら、国永自身も顔をしかめていた。
「痛い」
「そりゃあ、そんな力で掴んだらダメだ。女性の身体なんだから、触れるならもっと丁寧にする!」
 私がそう主張すると、国永は目を丸くした。それから、ニヤリと悪い笑みを浮かべる。おそらく、今、よくないことを考えついたのだろうという予感があった。
 案の定。
「……なら、主が触れてくれ」
「は?」
「この身体で遊ぼうにも、俺は力加減が分からん。自分で触れると……ひょっとして、傷つけるかもしれんな」
「ダメだって! 国永の大事な身体なんだから、乱暴に扱うのはダメ!」
「だから、主が触ればいい。……ほら、早くしないと……次は女陰(ほと)にでも触れてみようか?」
「いやいやいや!」
 何をするつもりか知らないが、加減なく触れて性器の粘膜に傷を付けたら目も当てられない。私は必死で国永を止めて……代わりに、彼の身体に触れることになった。
 寝間着を脱ぎ捨てて、ベッドに上がった国永と向き合って座る。こういう場合の手順として、とりあえずキスをした。軽く唇をついばみながら、肩や首筋を掌で慎重にたどっていく。
 先ほど、国永が容赦なく掴んだ胸を柔らかく撫でた。何度もそうするうちに、掌に擦れた胸の突起が芯を持ちだす。指先で軽くそれを摘むと、国永はビクリと身体を揺らした。
「ここ、気持ちいい?」
 私は唇を離して尋ねた。国永は考えるような表情で、首を傾げる。
「感覚はあるんだが。それが快楽かと問われると、まだ分からない。……けど、主は胸、けっこう感じるよな?」
「まぁ、男女問わず乳頭には神経が集まってるとか話だし。それと、私の体感の話だけど、肌への愛撫で得る快感は、男性器で得られる快感とはちょっと違うかな」
「そうなのか? どう違う?」
「男性器からの得る快感は、疑う余地もない快感だ。けど、肌とか後ろとかへの愛撫は、快感の兆候に耳を澄ませる感じ。これは気持ちいいはずだって思ってたら、くすぐったさとかピリピリする感じとかが、だんだん気持ちよさになってくる」
「うーん。気持ちいいと思ってみても、あまりよく分からんな」
 国永は自分の胸を見下ろして、微妙な顔をした。ので、少しは楽しませてやりたくなって、唇で触れてもいいかと尋ねる。彼は不思議そうな顔で、それでも「構わないが」と頷いた。
 私は国永の首筋に顔を埋めた。舌で肌を辿ると、国永が「くすぐったい」と笑う。それでも構わずに愛撫していって、やがて胸にたどり着いた。柔らかな隆起の始まる部分や側面に唇を付けて、そっと肌を吸ってみる。それが快感だったわけではないだろうけれど、頭上で国永がハッと息を呑むのが聞こえた。
 ふと顔を上げると、胸の頂上で突起が先ほどよりも張りつめているように思える。快感とまではいかなくとも、期待は感じたのかもしれない。そう思いながら、期待に応えるべく右の突起を口に含んだ。吸ったり、舌を擦りつけたり。「できれば気持ちいいといいな」と思いながら、丁寧に愛撫してみる。
 次いで、左の突起も同じようにした。
 幾度か繰り返して吸いつくと、国永の身体がビクリと震える。その振動で、軽く歯が突起を掠めてしまった。途端。
「あっ……」
 甘いアルトの声がこぼれる。私はびっくりして顔を上げた。頬に色味をさした国永が、呆然とした、けれどどこか艶めいた顔で私を見つめ返す。
 まさか、今のが気持ちよかったのか。そう思った瞬間、私も腹の底でジクリと覚えのある感覚がうごめくのを感じた。下肢が反応しかけているのが分かる。国永だけでなく、私もまたこの状況に興奮しかけているのか。まずい。本当にまずい。
 私は逃げ出したくなった。思わず、ベッドから降りようとする。しかし、国永が私の手を掴んで引きとめた。「どこへ行くんだ、主?」と刀剣男士の容赦ない握力で手首を握りながら、彼が問う。私は顔をしかめた。
「痛いって……。ごめん、やっぱり無理だ」
「なぜだ? 房事の半ばで投げ出すほど、俺には魅力がないのか?」
「そうじゃない! そうなじゃいけど……私も勃ったから、これ以上は無理」
「勃つのは生理現象だ。むしろ房事の最中に勃たないなら、それはかえって大変なことだろうに」
「だから、そうだけど、そうじゃなくて。私は女の姿の国永に、無体を働きたくないんだよ!」
「俺が望むなら、それは無体とは言わないさ。……だが、まぁいい」
 焦れたように言って、国永は私をベッドに引き倒した。身体の上に乗り上げてきて、帯を解いてしまう。そればかりか、いきなり下着ごしに性器を掴まれた。さすがに手加減したらしく、性器を掴む手にさほど力は込められていなかった。
「確かに勃ってるな」
「だから、勃ったって言った!」
「君がシないなら、俺がする。痛いのが嫌なら、大人しくしていろよ」
 国永はそう言って、私のものを愛撫しだした。普段、閨を共にしているだけにその手つきは確実に、私の弱い部分を刺激してくる。うっかりしていると声が出そうで、私は右手で口をふさいだ。
 それを見た国永は眉をひそめて――けれど、何も言わずに私の鎖骨の真ん中に口づける。硬い骨を確かめるように唇を触れさせてから、次いで、心臓のあたりに口づけを落とした。そこの肌をキツく吸われる。さらにはぐらかすように胸のあちこちの皮膚に唇を落としてから、右の突起に吸いついた。快楽を呼び覚まそうとするみたいな丁寧な愛撫の手順は、まさにさっき私が国永にしたものだ。無意識のうちに自分がしてほしい愛撫を施していたのかと思って、羞恥に身体が熱くなる。
 それと平行するように性器を扱かれて、私はあっけなく果ててしまった。荒い息を吐きながら呆然としていると、国永と密着している膝のあたりに湿った感触を感じる。思わず顔を上げたとき、彼と目が合った。
「女の身体は不思議だな。目合のとき女陰が濡れるとは知っていたが……興奮してくると、もう、そうなるらしい」
 無邪気な調子で言って、国永は女体の不思議を示すかのように私の太ももに陰部を押しつけてくる。そればかりか、ゆらゆらと腰を前後させて、太ももにぬめりを擦りつけるようにした。ぬるりと熱く濡れた粘膜と下生えの感触が肌の上を滑っていく。それだけでも国永はいくらか快楽を得ているようで、熱い吐息を漏らした。
「っ……はぁ……」
 目を閉じて、快感にひたるみたいに緩く背をそらす。興奮のためか、形のいい乳房の上で突起がツンと立ち上がっているのが見える。
 私はいたたまれなくなった。と同時に、もう十分に熱いはずなのに身体がいっそう熱くなる。コイツめ、と内心で舌打ちした。国永だって元はといえば、同じ男なだ。これはぜったいに、男の性を持つ者が何に興奮するか理解していて、全力で煽るつもりでやっているのだ。
 やめろ、と怒りたいけれど、口を開いて出て来たのは、懇願だった。
「やめてくれ……。国永、もう無理……恥ずかしいからやめて」
「恥ずかしいって、これは俺の身体であって、君のじゃないぞ」
「それでも、恥ずかしいんだって……!」
「それは分かったが、俺も身体が熱いんだ。このままじゃ、終われない。君が鎮めてくれ」
 国永は熱っぽい目で言って、私の上から立ち上がった。かと思うと、私の顔の上にゆっくり腰を下ろそうとする。口で愛撫してほしい、ということなのだろう。正直、そこまでしてしまっていいのか分からない。けれど、とにかく始めたことは、終わらせなくてはならないのだ。
 口での愛撫を了承するつもりで、少し頭を上げて、中途半端な位置にある女陰に唇を触れさせた。それだけで、国永は「ん」と甘い声を漏らす。間もなく、完全に降りてきたそこに私は舌で触れてみた。男性器に口淫するのとは違う味がするのが、同じ粘膜なのに不思議だ。
 陰唇の奥に舌をのばして、たぶん陰核だと思われる小さな突起に触れた。それに舌を擦りつけたり、吸いついたりしてみる。どうやら、そこへの愛撫は快感と受け取られやすいらしく、国永は頻繁に「あ」とか「ん」とかこぼして、小さく腰を揺らした。しかも、愛撫するうちに私の唾液と膣からの分泌液でそこがいっそう潤んできて、派手な水音が上がり始める。
 水音に聴覚を侵される形で、私の身体も再燃したようだった。
「主……。一度、達したが、また興奮しているみたいだな……」
 国永はそう言って、体勢を変えたようだった。私の腹に手を置いたかと思うと、性器を掴まれる。あっと声を上げる暇もなく、次の瞬間にはそこはヌルリとした温かな感覚に包まれていた。おそらく、国永も口淫しているのだろうと思われる刺激と水音。思わず愛撫を中断して、私は声を上げた。
「も、それ……やめてって……」
「っ……やめても何も、主も勃ったままでは辛いだろう。これなら、互いに気持ちよくなれる」
「私は、もういいから……」
「まぁ、そう言うな。もっと悦くしてやる」
 言うが早いか、国永は濡れた指で私の身体の奥に触れた。国永のものを受け入れることに馴れたそこは、要領を知った彼の指をあっさりと迎え入れてしまう。細い指が体内で開くような動きをすると同時に、口淫が再開された。後ろを攻める指があっさり増えていって、バラバラと体内で動く。
 こちらも忘れてくれるなと言うように、女陰が軽く押しつけられて、私はやけになってそこに舌をのばした。国永は愛撫しながらひどく興奮しているようで、あとからあとから分泌液が溢れてくる。陰核から少し離れた場所、小さく開いた膣部に舌を差し入れてみると、キュと誘うような動きか返ってきた。けれど、望まれてもこれ以上は舌が届かない。
 私は右手の指を一本だけ、ゆっくりとそこに差し入れた。粘膜を傷つけないよう、静かに抜き差ししながら、舌で陰核を愛撫する。いつしか、そこは最初より幾分か固くなったようだった。国永は無意識なのか腰を揺らしながら、私への愛撫を続けていた。
 この身体に挿れられたい。彼に挿れたい。二つの欲望か混じりあって身体の中で渦巻く。訳が分からなくなりそうだった。だって、挿れたいといっても思い浮かべるのは私の知る国永で。いやらしいことをしたって、なお柔らかくて儚い女の身の彼には、こんな食らいつきたいくらいの欲望をぶつけるのは不安すぎる。
 国永はここにいるのに。それでも、ここにいる国永ではダメで、どうしたらいのか分からない。そんな不安さえも欲望に混じって、全部が出口のないままに私の中で暴れくるっている。
 いっぱいいっぱいだ。もう吐き出したい。
 射精感と相余って、泣き言のようにそう思う。
「んっ……。なぁ、主……分かるか? 君のナカ、今、四本の指を飲み込んでるんだ。……女の細い指とはいえ、なかなか……君の身体はいやらしい……っ……!」
 ふと口淫を中断した国永は、そう言って私の体内のある一点をグィと押した。ビリビリと快楽が信号となって神経に伝わってくる。もう吐き出したくて、無我夢中で私は国永の指にその箇所を押しつけるように腰を揺らした。
 その様に興奮するのか、国永の中からはさらに蜜が溢れてくる。彼が腰を振るのに合わせて指を抜き差ししながら、私はひときわ強く陰核を吸った。刹那。国永が高い声を上げて絶頂する。一方の手が性器の先端をぐぃと刺激して、内部の指先が乱暴なほどに感じる箇所を押す。その刺激で私も果てた。
「……女の快感は、男の身で得るのとは違うんだな」
 しばらくして、私の傍らに身を横たえた国永がぽつりと呟いた。だらりと弛緩した身体は、それでも、だらしないというより、しどけなくて艶っぽい。部屋の明かりの中で、目を向ければ緩やかに隆起する胸がゆったりとした呼吸に上下しているのが分かった。
「やみつきになりそう?」
 私は尋ねる。国永は考えるような間の後に、首を横に振った。髪がシーツに擦れて、パサパサと微かな音を立てる。その音をぼんやり聞いていると、彼は勢いよく起き上がった。どうしたのかと目で追う間すら与えず、私に覆いかぶさる。唇を押し付けて、その柔らかな感触には似合わない貪るようなキスを仕掛けてきた。苛立っているのか、と口づけに息を奪われながら思う。
 本来の己とは違う姿になったことは、国永だって、苛立っているに決まっている。私は彼の背中に腕を回して、宥めるように撫でた。やがて、唇を離した国永は、ひどく悔しそうなにつぶやく。
「きみをだくほうがすきだ」
 飢えたような眼差しは確かに男のもので。ままならないね、と言いながら、私は崩れ落ちるように身を寄せてよせてきた国永をやんわりと抱きしめた。







5.さにわちゃんねるにて



358 ななしの審神者さん
今北産業


359 ななしの審神者さん
過去ログ嫁


360 ななしの審神者さん
ログ嫁


鶴丸
女士化
三日目


361 ななしの審神者さん
主の
SAN値
ピンチ


362 ななしの審神者さん
しかし、なかなか鶴丸も元に戻らないな。俺たちは後輩や悪友が報告がてら落としていく女士鶴の写真(後ろ姿だが)で喜んでるが、女士鶴の主の追い詰められっぷりがなぁ……。


363 ななしの審神者さん
でも、先輩って鶴と恋仲なんだろ?別にいいじゃん。恋仲じゃないなら、万が一、襲っちゃったら……とか気を遣うけどさ。恋仲なんだから、たとえそういう雰囲気になっても、困らないだろ。


363 359
三行tks

しかし、分からん。
ログたどってくる。


364 ななしの審神者さん
>363 行ってらノシ
ここは成人限定板で全年齢より人少ないから、流れも早くない。ゆっくり読んでこい。


365 悪友
>362 先輩はさぁ、たぶん無意識にだろうけど、近侍どのに操を立ててるんだと思うよ。近侍どのが女士化した姿だといっても、当の近侍どのがくっつきたがっても、本来の近侍どのに対しての貞節を守ろうとするんだと思う。


366 ななしの審神者さん
お、悪友キター(・∀・)


367 ななしの審神者さん
>365 貞節っつたって、鶴は鶴だよ。女士化したからって態度変えてたら、そりゃ怒るわ。


368 ナンパ師
そっちも大変そうだな>悪友


369 ななしの審神者さん
ナンパ師も来たか。


370 ななしの審神者さん
ってか、そっち『も』って?
ナンパ師もなんかあったのか?


371 ななしの審神者さん
kwsk


372 ナンパ師
kwskすると、スレチだから


373 ななしの審神者さん
確かに。だが気になる。


374 悪友
べつにいいんじゃない?>ナンパ師
どうせ、こっちの報告も相変わらず近侍どのは女士化中ってだけだし。
後輩も今日はここへ顔を出さないみたいだから、話してけば?


375 ななしの審神者さん
スレ主じゃないけど、スレ主の関係者がこう言ってるんだし。
kwsk>ナンパ師


376 ななしの審神者さん
そーだそーだ。


377 ななしの審神者さん
kwsk!


378 ナンパ師
じゃあ話す。

昔ナンパした相手と接触
小狐にばれる
小狐が口きいてくれない


orz


379 ななしの審神者さん
うーん、それは言っちゃ悪いが自業自得じゃね?


380 ななしの審神者さん
まぁ、仕方ないよね。


381 悪友
ってか、なんで昔のナンパ相手に接触?
関係が再燃したとか?


382 ななしの審神者さん
小狐とか特にだけど、刀剣男士はけっこう感覚鋭いから、
同じ相手と何度も会ってたらたぶん気付くと思うぞ。


383 ナンパ師
>悪友
昔のナンパ相手に接触したのは、その人が演練場で変なのに絡まれてたから。
助けに入ったんだ。
事情を聞いたら、絡んだ男はその人がナンパを受け入れてるのを見たことがあって、自分にも付き合えって言ってきたらしい。
でも、その人はソイツが気に入らなかったから、ノーって返事した。ら、ナンパ歓迎の尻軽だって言いふらされたくなかったら、言うことをきけって脅されたらしい。で、そこに俺が乱入した。


384 ななしの審神者さん
無理強い胸糞


385 ななしの審神者さん
脅迫男胸糞


386 ななしの審神者さん
脅迫に割って入ったナンパ師△


387 ナンパ師
まぁ、演練場でナンパとか、一般的にいい顔されないのは承知してる。
けどさ、そういう場所でちょっと遊ぶ相手見つけて、二、三回遊んでっていう人ってさ、刀剣男士がほんと大好きな人もけっこういるんだぜ? 誰もひいきしたくないから本丸で恋人つくりたくなくて、でも人肌恋しくなるから、お互い遊びって同意できる相手見つけるのな。

俺もその人もそういうタイプだったから、絡まれてるの見て腹が立った。


388 ななしの審神者さん
ちょ、ナンパ師、刀剣好きすぎて恋愛できないから、外で遊んでたのか!?


389 ななしの審神者さん
ま さ か の 展 開


390 ななしの審神者さん
ってか、それなら現世で恋人作ればいいんじゃね?


391 ななしの審神者さん
や、でも審神者なら分かるだろ。俺たちほとんど本丸から出ないから、外に恋人作っても価値観合わなくて別れるパターン多いんだぜ? 本当の本気で相手が好きで、現世と本丸と両方に気を配らなきゃ多分ムリ。
けど、歴史修正主義者との戦いなんて、片手間でできないだろ?


392 ななしの審神者さん
まぁ、審神者同士の結婚が多いのは、それがいちばん楽だからだわな。


393 ナンパ師
>390 現世の恋人は>391とかが話題にしてるけど、ちゃんと大切にできる自信がないから無理。だって、俺、基本、刀剣男士と本丸優先だし、自分の人生はそれでいいと思ってる。
なぜなら俺氏、刀フェチ。特に刀身を見るのがマジで好き。模造刀もいいけど、付喪神宿ってる男士の本体ヤバイ。綺麗すぎる。手入れが至福のときなんじゃー。


394 ななしの審神者さん
いきなりコアな情報ぶっこんで来やがる>刀フェチ


395 ななしの審神者さん
手入れのときなんか、手入れに必死であんまり意識ないわ


396 ナンパ師
ってなわけで、演練場でナンパしてるのがヒンシュク買うのは知ってるけど、それで遊んでる人間にもいろいろ事情はあるんだよ。色眼鏡で見られるの覚悟でやってるけどさ。そういう遊び相手同士は、なんか自分の「同志!」ってかんじなのな。
悪友がスレの最初の方で、三日月と加州は互いに愛情に近いけど親愛で……って話してたけど、同じ趣味の遊び相手は俺にとってそんな感じ。手出しされるとムカつくし、助けようと思うに決まってる。



ただ、小狐がなぁ。
「ぬしさまから、以前、かいだことのある匂いがいたします。我らを差し置いて、恋仲の相手でもできたのですか?」
って言われて、はぐらかそうとしたら口も利いてくれんorz
刀剣男士は皆、大好きだからつらい……orz


397 ななしの審神者さん
うーん、それは……。


398 ななしの審神者さん
ナンパ師の言い分は理解するが、小狐はすねるだろうな……ぬしさま大好きっ子だし。


399 ななしの審神者さん
ままならないもんだねぇ。


400後輩
やばい


401後輩
せんぱいときんじさんがけんかしてる

あくゆうさんおれどうしたら


402 ななしの審神者
後輩!?


403 ななしの審神者
>4400-401
やばい
先輩と近侍さんが喧嘩してる
悪友さん俺どうしたら

か?
後輩、もしかしてちゃんと端末に触れない状況なのか!?


404悪友
いま後輩と連絡取る
ごめん、落ちる





(以下、後輩や先輩と鶴丸を心配するレスが続く)







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