あなたは愛をくれました2



 目の前に、大きな影が立ちふさがっている。
 1歩、2歩と後退したら、うっかり地面の窪みに足を取られてしまった。崩れた体勢を立て直すこともできないまま、私は背中から後ろに倒れかける。と、
 「 っ!」
 影が叫んでこちらへ手を伸ばした。私の手を掴んでぐいと引き寄せるものだから、私は今度は影に向かって――その腕の中に――倒れることになった。けれど、影は避けることもなくしっかりと支えてくれる。もう、この影が誰なのか私にも分かる。
 「ありがとう、アサト」
 その腕から身を起こしながら言うと、影――アサトは闇の中で微笑んだようだった。「いや、お前に怪我がなくてよかった」


 それから私たちは、壊れてしまったライトの代わりに携帯電話の画面の光で木の葉を8枚ほど採ってから帰途に着いた。
 「…以前外へ出たときに、あの木を見た覚えがあった。それで探しに来たはいいが、今日は月もない。見つからなくて困っていたから、お前に会えてよかった。俺だけでは見つけられなかった」
 「私も、アサトに会えてよかった。あの木で合ってるかどうか自信がなかったし、何より一人で怖かったし」
 「そうだ、 、お前は夜遅くに一人で出歩いてはいけない。祇沙では雌が少なくて、不用意に出歩けば必ず襲われていた。俺を育ててくれたカガリは襲われないくらい強かったけど、それでも、いつも不快な目に遭っていた。この土地は雌が少ないということはないのだろうが、やっぱり、少しは危険はあるだろう。俺は、 がそんな目に遭うのは嫌だ」
 「うん、分かってるんだけどね…コノエがあんなだから居ても立ってもいられなくて」
 でもそれはアサトも同じでしょう、と言い掛けたところで、言葉の代わりにくしゃみが飛び出した。雨はいまだに降り続いていて、濡れそぼった身体を悪寒が這い上がってくる。私まで風邪をひきそうだ。
 何の効果もないのだが、自分で自分の身体を抱いて濡れそぼったジャケットの上から両腕を擦りながら歩いていると、アサトがこちらを振り返った。「寒いか…早く帰ろう」言うが早いか彼は唐突に私を抱き上げようとする。驚いた私は、その腕の中で手足をばたつかせた。
 「アサト!ちょっと、これは…!」
 「嫌だったか?」アサトは私を静かに降ろした。
 「嫌というか、困るというか、恥ずかしい。お姫さま抱っこなんて私の柄じゃないもの」
 「お姫さま抱っこ?さっきの抱き方のことか?」どうやら無意識だったらしい。アサトは首を傾げている。
 「そう、さっきのアレのこと。一般的に、白雪姫とかシンデレラとか御伽噺のお姫さまが王子さまにああやって抱きかかえられるイメージがあるの。それで、お姫さま抱っこ。だから、ほら、お姫さまじゃない人がしたら恥ずかしいっていうか、似合わないの」
 私はアサトやコノエに祇沙の御伽噺を教えてもらう代わりに、この世界の御伽噺を話したことがある。そのうちの幾つかの題名を挙げると、アサトもイメージが出来たらしく「分かった」と頷いた。
 「お前がつがいに望む相手は他にいるのだから、あんな風に抱き上げるのは非礼なことだったんだな」
 納得してくれたはいいが、その方向性は少し違う気がする。とはいえ、<リビカ>で言うところの“つがい”がどういうものであるか今一つ分からない私には、訂正の仕様がない。現代の辞書にある“つがい”と同じ意味なのだろうか、と思っていると、アサトは今度は私の手を取って引いた。
 「それなら、こうしよう。これなら、夜目が利かないお前を先導してやることができる」 


***


 びしょ濡れになって帰ると、ライが玄関で仁王立ちになって待ち構えていた。
 「遅いぞ、馬鹿猫どもが」絶対零度の叱責の声。だが、それも乾いたタオルと共に投げかけられれば、かなり温度も温くなるように感じられる。「よく拭いてから家に上がれ。アサト、お前は着替えて来い。 はそのまま風呂場へ行け」
 ぴしりと指示を出すと、ライは私たちが差し出した葉を受け取って台所へ消えていく。私とアサトは思わず顔を見合わせたものの、互いに無言を通した。威厳たっぷりに言われても内容が母親のような叱責では怖くない――そう笑い出せば、きっと台所にいるライに聞こえるに違いないからだ。


 そのまま玄関で分かれて、アサトは2階の自室へ、私は風呂場へと直行する。けれど、脱衣場の前で私ははたと気付いた。「パジャマ持ってきてないじゃない」そこで私も2階の自室へ行き、パジャマを手に廊下へ出ると、ちょうど自分の部屋から出てきたコノエと出くわした。
 「おかえり」
 「ただいま、コノエ。どうしたの?何か欲しいものがあるなら取ってくるけど?」
 水でも欲しくて起き出してきたのかと思い尋ねると、コノエは緩く首を横に振った。
 「ちがう。さっきアサトからあんたと一緒に薬効のある葉を採りに行ってたって聞いて、礼を言いたくて。…ありがとう」
 コノエは手を伸ばし、指先で私の額から濡れて張り付いた前髪を退けてから、頬に触れる。「濡れて、冷たくなってる」そう言うコノエとの距離が、かつてない程に近い。綺麗な琥珀色の瞳が熱に潤んでいる様子まではっきり見えて、私は密かに動揺した。
 「あんたの帰りが遅いから心配した。ライは気にするなの一点張りで、あんたが一度帰ってきてまた出て行ったことさえ教えてくれなかったし」
 「それは、ライはコノエに心配させたくなかったからよ」コノエが少し拗ねた口調なので、私は思わずあやすように言った。
 ライは、言いたくても言えなかったに違いないのだ。病のコノエを煩わせたくなかっただろうし、これから似ているとはいえ効果の分からない葉を薬として使うということを知らせて不安を持たせたくなかったのだろう。また、自分がまず毒見するのだということをコノエに知られるわけにもいかない(コノエが知れば止めるだろうから)。
 そんなことを思っていると、コノエは「でも心配したんだ」と呟いて更に顔を寄せた。
 冷えた頬に熱くざらりとして湿った感触。髪の中から頬まで垂れてきた水滴を拭い取るように這う。それがコノエの舌の感触であると気付いたのはたっぷり数秒後で、私は一瞬頭が真っ白になりかけた。
 「あ、あの、コノエ…?」大丈夫?と問いたいところを、さすがに失礼かと思い直す。
 「あんた濡れてるから、毛づくろい。…嫌か?」
 ほんの少しだけ顔を離して、コノエは言った。
 嫌かどうかの問題ではなくて。ネコと同じ耳と尾を持つ<リビカ>ならともかく、動物のように長い毛並みのない人間に、毛づくろいは必要ない。コノエたちが人間と同様の手足も毛づくろいをしているのを見たことがあるから、毛づくろいというのは単に祖先の習慣を受け継いだものなのかもしれないけれど。
 コノエのこれは、ネコの兄弟が互いの毛づくろいをするような位置づけの行為になるのだろうか。今一つよく分からないものの、コノエの瞳が熱に霞みながらもやけに真剣であったので、私は小さく首を横に振った。

 「嫌じゃない」

 答えると、毛づくろいが再開される。コノエは私の後頭部に手をあてがって顔を固定し、ざらつきのある舌で頬を、目の縁を、こめかみの辺りを舐める。最初は自分が全身毛だらけにでもなったようだ、と滑稽に思いもした。その次には、恥ずかしくて居たたまれない気がしたけれど、冷えた頬に触れる熱い舌と吐息の感触は思いの外に心地よく、ついには目を閉じて与えられる感触を静かに受けいれた。
 と、不意に頬を滑った舌が唇に触れる。「ん…っ!?」驚いてコノエの名を呼ぼうと開いた口に、舌が挿し入れられる。私はコノエの舌を噛まないように、慌てて口を開けた。
 口の中はさすがに毛づくろいしないだろうと思うのだが、<リビカ>の習慣に疎いので確証が持てない。コノエはといえば相変わらず頬を舐めていたときと同じ無邪気さと丁寧さで以って私の上顎や歯列を舌でなぞっているものだから、次第に疑念を持つ自分自身が疚しいものに思えてくる。

 これは毛づくろいなんだ。気にする方が疚しいんだ。

 必死で自分に言い聞かせながらコノエの為すがままになっていると、コノエは私の舌の表面を舐めた。それが1度ならばまだ良かったものの、2度3度と続けられると何だかムズムズして私はつい舌を動かしてしまう。それが、コノエの舌先を突く形になった。
 すると、コノエは新しい遊びでも見つけたかのように、更に舌を触れ合わせてくる。舌を絡めあうこれが毛づくろいとはどうしても思えないのだが、私たちは互いに限度を忘れたかのようにしばらく舌先を舐めあうたどたどしい口付けを続けた。
 やがて息苦しくなって顔を引くと、コノエはゆっくりと唇を離した。最後に惜しむように舌を出して私の唇の表面をひと舐めしてから、こつんと額を合わせる。するとコノエの熱の高さがはっきりと感じられ、私は今更のように慌てた。
 「コノエ、もう、」寝た方がいいよと言おうとするが、遮られる。
 「 、俺は…」
 コノエは吐息混じりに囁いた。まるで睦言のような密やかな響きと間近に見る琥珀色の瞳に、一瞬ぞくりとした感覚が背筋を駆け抜けていく――。


 次の瞬間、ぐらりとコノエの身体が傾いだ。
 私は咄嗟に手にしたパジャマを放って崩れ落ちるコノエを自分の方へ引き寄せるが、やはり支えきれない。ずるずると下敷きになる格好で一緒に崩れ落ちた私は、何とか下から少し這い出して、腹の辺りにコノエの頭を受け止めながら同じ階にいるはずのアサトを呼んだ。
 朝とは既に着替えを済ませていたらしい。呼ぶとすぐにドアを開けて部屋から出てきたものの、私たちの状態をみるとぎょっとした表情で硬直する。
 「コノエ!? も、これは一体…」
 「えぇと、2階にパジャマを取りに来たらコノエがあの葉っぱのことでお礼を言いにきてくれたんだけど、倒れちゃって。アサト、申し訳ないけどコノエを運んでくれる?それから、運んだらついでに着替えさせてやってほしいの。コノエ、少し汗をかいたみたいだし、一緒に倒れたときに私の服の湿気が移ったから」
 一部をばっさり省略したまま状況を説明して後を任せると、私は足早に風呂場へ向かった。脱衣所で一人きりになって息を吐くと、じわりと今更のように頬が熱くなってくる。あれはただの毛づくろいなんだ、と私はもう何度目かになる言葉を自分に言い聞かせた。


***


 ライは私たちが採ってきた葉が使えそうだと判断して、薬湯を作った。
 それをコノエに飲ませて、後は皆で交替にコノエの傍につくことにする。未知の葉を使ったため、コノエに何かあったときを考えてのことだった。順番はライ、私、アサトとなった。当初ライもアサトも私はいいと言ったのだけれど、一人仲間はずれは嫌だと言ったら、彼らはあっさりと私も順番に入れてくれた。
 そうして、夜半、私はライと交替する。


 薬湯の効果かコノエはよく眠っており、“もしものこと”など起こらないような気がした。私はその様子を見てほっとしながら、先程までライが座っていたベッド脇の椅子に座った。外は雨が止んだものの風は強いらしく、ひゅうひゅうと吹き抜ける風の音が聞こえる。この家は古いので、風が吹き付けると立てつけがやや甘くなったガラス戸が時折がたがたと不安な音を立てた。

 そうして、しばらく経ったとき不意にコノエが呻いた。

 最初、それは寝言のように聞こえた。けれど、そうではなかった。低く苦しげな呻り声と、時折そこに混じる言葉。何を言っているかまでは聞き取ることができない。
 (まさか、あの葉が毒になったんじゃ…!)
 ぎくりとした私はライやアサトを呼ぶために椅子から立ち上がる。と、そのときコノエの呻く声に苦しみというよりは悲痛な色が混じった。まるで泣こうとして泣くことができなかったみたいに。怖い夢でも見て魘されているだけなのだろうか。ふとそう思うけれど、単なる怖い夢にしてはコノエのうめき声に混じる悲嘆の色は、もっと具体的な何かを目の前にしているかのようにはっきりとしている。
 私はすとんとベッド脇の床に直接座り込むと、きつくシーツを握り締めるコノエの右手に自分の手を重ねた。「大丈夫、ここにいるから」緊張した指先から手の甲までの強張りを解くように、繰り返し撫でさする。
 あぁ、この子は何か抱え込んでいるものがあるのだろう――苦しげなコノエの寝顔を見ながらそんなことを思う。


 自分ひとりが孤独で、自分ひとりが今持つものを失うことを恐れていると思っていた。


 祖父母も両親も亡くし、兄とこの家に残された自分。その兄も私が大学生活を半ば終える頃には海外へ行ってしまい、この家は本当に私一人きりになった。がらんとして寂しいならば家を処分するなりすれば良かったのかもしれないが、それは家族のつながりまで消してしまうようでできなくて、どこへも行けないままに留まり続けた。
 まるでこの家に――暖かいけれど重苦しい家族の絆に――縛られているかのような気がしていた。コノエたちと同居を始めてからは新しい家族を得たようでそのような心境ではなくなったけれど、今度は彼らがいなくなることをひどく恐れるようになった。
 また、家族の誰かを失うのが怖い。皆いなくなってまた一人になったら、今度は耐えられるだろうか。――苦しいのも寂しいのも自分ひとりではないのは当たり前なのだけれど、どうして自分だけがこんなに怖がらなくてはいけないのかという気分もあるにはあった。
 けれど、そうじゃない、と気付く。コノエにもライにもアサトにも、恐れるものはある。だからライやアサトはあれ程コノエの身を案じたのだし、コノエは私の帰りが遅いことを心配したのだろう。
 大丈夫。不安なのは皆同じだ。自分ひとりではないから、いつか今ここにあるものがばらばらになるとしても、今あるものを全力で大切にしようと思った。ライが好きで、アサトが好きで、コノエが好きだ。だからいつか別れるとしても、今は家族でいたい――そう思った。
 

 繰り返し撫でていると、ゆっくりとコノエの右手から力が抜けていく。私はシーツとコノエの手の間に自分の手を滑り込ませた。そのまま軽く手を握れば、無意識だろうがコノエは軽く手を握り返してくる。
 うめき声が止み、ゆっくりと呼吸が安らかなものに変わっていったけれど、私は交替の時間までずっとそうしていた。 


***


 コノエが目を開けたとき、室内は明るくなっていた。夜が明けたのだ。
 一昨日から熱っぽくぼんやりとしていた意識は今日はすっきりとしていて、熱はひいたかのようだ。ベッドの上で起き上がると、すぐ傍の椅子にライが座っているのが見えた。驚いたコノエが目を丸くすると、ライは閉じていた瞳を開いてコノエを観察するようにじろじろ眺めた。
 「お、おはよう、ライ」
 「熱は大方引いたようだな」と、そこでライは手を伸ばしてコノエの額に触れる。「だが、まだ少し残っている。今日一日も眠れば完治するだろう」
 「――あんた、一晩中ついててくれたのか」
 「アサトや も交替でお前を看た。祇沙で薬効のある葉とはいえこの土地のものを使ったのだからな、予期せぬ副作用が出るかもしれん。お前を一人で寝かしておくわけにはいかなかった」
 「そうか…ありがとう」道理で時折傍に誰かの気配を感じたはずだ、とコノエは納得する。

 とりわけ、リークスの記憶を夢に見たとき。
 “大丈夫、ここにいるから”優しい声音と共に手に重ねられた手の温もり。そこから感情の器でなくなってからは滅多に起こらなくなった共感が起こった。それ程に、強くはっきりとした感情だったということだ。あのとき流れ込んできた、温かく、優しく、少しだけ寂しげな想い――リークスの闇の記憶に溺れかけた中で、どれほどそれに救われたことだろう。
 コノエは讃牙なので永遠に知ることはないが、あのときの心強さは、讃牙の歌を背に闘う闘牙の心境に近いものがあるのではないかと思う。ほら、もうあの感情にもっと触れたいと水を欲する切実さで願い始めている。


 そうするうちに、ドアを叩く音が聞こえた。
 コンコン、と軽く2回。それからドアが細く開き、「ライ?交替の時間よ」と囁き声が吹き込まれる。 の声だ。
 「もう必要ない。症状は治まったようだ。コノエも起きている」
 ライが答えるとドアが開いて が入ってくる。その顔が、コノエを見た途端ぱっと笑顔に輝いた。「あの葉っぱ、効いたんだ。良かったぁ」 は手を伸ばしてコノエの額に触れる。けれども、それでは熱の程度が判断できなかったらしく、彼女は小さく首を傾げた。
 「コノエ、ちょっとごめんね」
 断りを入れると、 は両手をコノエの頬に当てて顔を固定し、額を触れ合わせる。「おぉー、下がってる下がってる」やや色気に欠ける呑気な感嘆の声を間近に聞きながら、コノエはあることに気付いてぎくりと硬直する。幸か不幸か、彼女はコノエの様子には気付かず、朝食の用意をするといって部屋を出て行った。


 「な、な、な…」何でと言おうとするのが上手く言えない。
 「あぁ、何故か から微かに“お前の”匂いがするな。昨夜からだが」
 あっさりとライに思っていたことを指摘されて、コノエは一瞬のうちに赤面した。ライには何があったか大方予想がついているらしい。心当たりがない、と言いかけたコノエだが、しっかり該当する記憶が蘇って反論もできなくなる。
 雨と土の匂いをまとった身体。濡れて冷たくなった頬。触れ合わせた唇の柔らかさ。それから…。昨夜自分が熱に浮かされて何をどこまでしてしまったのか、はっきりと居たたまれないほどに覚えている。
 拒絶こそされなかったものの、 があの唐突すぎる行動をどう思ったのか考えるだに恐ろしい。
 「ちがう!あれは、 が雨に濡れたままで!毛づくろいしないと風邪を引くなってふっと思ったから…別に最初はそれ以上の意図はなかったんだ…
 「俺に言い訳してどうする」ライはにべもなく言った。「お前がどういう相手にどういう感情を抱こうが構わん。だが、衝動に任せて行動した後に、それを熱のせいだとか上っ面の理由で誤魔化すのは止めろ。卑怯だ。相手を傷付けることにしかならない」
 「…ちゃんと、 に言う」何をどう言っていいかわからないけれど。
 そうしろ、と言ってライはコノエの頭をぐしゃぐしゃとかき回した。こういうところは祇沙にいる育て親に似てき始めたのではないかとコノエは常々思うのだが、ライが恐ろしいのでいまだ口に出したことはない。
 「まぁ、相手を傷付けるとはいっても、今回の場合 は親愛の毛づくろいをされたと思い込んでいるようだがな。<リビカ>は互いに毛づくろいをしあうものなのかと聞かれたので、家族や親しい相手にはすると答えたら納得したようだった」
 「毛づくろいで納得って――でも、まさか…口の中は毛づくろいで納得できるはずが…」
 コノエは呆然と呟いてライを見た。
 ライは常とは変わらない表情のまま、コノエを見る。
 2匹は視線を交わしたまま、浮かんだ考えを口に出すことを躊躇った――さっきの彼女の拘りのない態度から察するに、本当にそれで納得したのではないか、という可能性を。






End. 配布元:『is』“Refrain”より
「あなたは愛をくれました」

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