パンドラの箱1−7 アキラが襲われた。襲ったのは、〈ヴィスキオ〉の構成員の中でも忠義が篤いことで知られる、ナガツカである――商談に出かけた海外で、シキはその報せを受け取った。しかし、その足でニホンに取って返すことはしなかった。 帰りたい、と思わなかったわけではない。けれども、そうすることでアキラが己の弱みだと、愛妾を使えば己を動揺させることができるのだと思われたくなかった。外の人間にも、〈ヴィスキオ〉の身内連中にさえも。 〈ヴィスキオ〉の首領――王とは、冷酷無比な絶対君主でなければならない。シキはそう考えていた。 結局、シキが帰国したのはニホンからの報せがあって、三日後のことだった。三日間、問題を放置していたとはいえ、筆頭幹部にはアキラの警護の強化と襲撃者であるナガツカの身柄の確保は命じてある。今のところ〈ヴィスキオ〉の本拠地としている事務所に戻ったシキは、すぐに幹部を召集した。 集まった四人の幹部は、戦々恐々といった有様だった。息を呑んでシキが言葉を発するのを待っている。三日の間ずっと腹にため込んでいた激情を押さえ込んで、シキは幹部の一人――襲われたアキラを助けたニシという男に報告をするように命じた。 「――私が異変を感じて駆けつけたとき、室内にはアキラ様とナガツカ、そして、アキラ様の警備を命じていた私の部下がいました」 「部下?」 「トモユキという者です。後で彼に話を聞いたところでは、室内の争うような物音を聞きつけて駆けつけたところ、既にナガツカがアキラ様にナイフを向けていたそうです。なぜそのような事態になったのかは分からない、と」 「――ナガツカの方は何と言っている?」 「拘束して監禁してあります。ですが、多少の拷問でも口を割りませんでした。動機はシキ様に直接、申し上げると言うばかりで。……申し訳ございません」 「ならば、俺が話を聞く。ナガツカを呼べ。アキラを助けた功績のある、トモユキという男も」 感情のないシキの声に、幹部たちは怯えたように頭を深く下げる。ニシが立ち上がって、部屋のドアへ向かった。シキがナガツカたちを呼ぶことを予感して待機させていたのだろう、ドアを開けてすぐに部下に拘束させたナガツカを部屋の中に招き入れる。その後に続いて、赤い髪の青年――おそらくトモユキというのだろう――が肩身の狭そうな様子で入ってきた。 乱暴に引っ立てられ、シキの正面に立たされたナガツカは、ひどい有様だった。拷問のせいなのか、左の頬は腫れ上がり、裂けた衣服の合間から体中のあちこちに切り傷が見える。身体を支えるのも辛いようで、されるがままになるなりながらも、シキを見たナガツカの目には強い意思の光が宿っていた。 狂信者の目だ。ナガツカの行動はどうあれ、彼自身は主君に背いたとは考えていないのだろう。そうシキは感じた。 「――ナガツカ。なぜアキラを殺そうとした? 俺になら理由を答えると、そう言ったらしいな」 シキが訪ねると、ナガツカは拘束するニシの部下に抗って、自ら床に跪いた。 「……アキラ様を殺そうとしたのは、シキ様……あなたのためです」 「俺のためだと?」 「以前にも、あなたに警告しました。ほとんど完璧な強さを持つあなたの中で、アキラ様の存在は唯一の弱点、生命取りになるでしょう」 「うるさい……」 「……いつか、輝かしい強さを誇るあなたがアキラ様のために足下を掬われる未来を見るくらいなら、たとえ反逆だと言われようと、私はここであなたの弱点を始末しておきたかった」 「黙れ……!」 シキは鋭く声を発した。途端、周囲の物音が水を打ったように静まり返る。皆の緊張を帯びた沈黙に構わず、シキは傍らの刀を手に席を立った。 テーブルの脇を抜け、ナガツカに歩み寄る。手にした刀をすらりと抜けば、幹部たちが息を呑むのが分かった。ナガツカと共に部屋に呼ばれた赤毛の男など、怯えきって後ずさっている。シキは刀の切っ先を跪いたナガツカの目の前に突きつけた。 「理由はどうあれ、俺の所有物を害そうとした。その罪は許さん」 「……もとより、覚悟の上です」 「生命を惜しむ気持ちはないのか?」 「私は先の大戦で何もかも失った……。戦後、何年もの間、世間に馴染めずにいたところを、この組織に入ってあなたという導きの光を見いだしたのです。あなたを失うくらいなら、この生命はどうなってもいい」 「いい覚悟だ」 ひどく冷たい声でシキは言って、刀の切っ先をナガツカの目に近づけた。それでも彼は目をそらさない。その真っ直ぐな眼差しに、一瞬、かつてトシマで出会った頃のアキラの顔が脳裏に蘇る。 アキラが己の弱みになる。ニコルウィルスの保菌者になった、今の己にとってさえ。――そう思った途端、腹の底から憎悪がこみ上げてきた。目の前の男を――いや、それ以上に、アキラをこの手で殺してしまいたい、という衝動に駆られる。 「……貴様のその覚悟、試してやろう」 シキは嗤って、ごく僅かに刀を握る手に力を加えた。すっと舞のひと振りのように微かに手を動かす。その動きで刀の切っ先がすっとナガツカの左目を切り裂いた。あっけないほどの手応えだった。 「……ぐっ、あああぁぁぁ!」 ナガツカが傷ついた左目を押さえ、絶叫する。しんと静まり返った幹部たちを振り返って、シキは指示をした。 「もういい。こいつを連れて行け。片目を奪われてなお、俺の下で仕える気概があるのならば、もとの役目に戻してやれ。逃げ出すようならば……殺せ」 「はっ」ニシが頭を垂れ、短く答える。 そこで、シキはふと思い出してドアの前へ目を向けた。苦痛の呻きを上げながら、ニシの部下に引っ立てられるナガツカ。その姿を恐怖の色を張り付かせて見つめている赤毛の青年がいる。 「ニシ。あの男……トモユキといったか」 「はい」 「アキラを救った褒美だ。昇進させて、配下を付けてやれ」 シキがそう言ったときだった。あの、とためらいがちに、当のトモユキから声が上がった。 「……配下を持っていいなら……俺のダチ、連れて来ていいですか……? そのダチ、今、働き口なくて……」 「トモユキ! シキ様に直接口を利くな!」 「ニシ、構わん」シキはトモユキを叱りつけようとするニシを片手で制した。次いで、トモユキへ目を向ける。「その友人とやらが、〈ヴィスキオ〉に有益だと分かったならば、使ってやろう。連れてきて、組織へ入るための試しを受けさせろ」 「あ……ありがとうございます……!」 トモユキは深く頭を下げた。 *** 一週間ぶりに戻ってきたシキは、今までの彼とはどこか違っていた。寝室のドアが開いた乱暴な音で振り返った、アキラはすぐに異変に気づいた。 「――シキ……?」 本当は、帰ってきたシキにお帰りと言うつもりだった。けれども、寝室の戸口で佇んだままのシキは、ぴりぴりと張りつめた気配をまとっている。まるでアキラを拒むかのように。アキラはじっとシキの様子をうかがうしかなかった。 シキは黙ったまま、アキラを見つめている。まるで存在を確かめているかのようだ。アキラはシキの視線に落ち着かない気分になった。それを紛らわすように、楽観的に考えてみる。 (――もしかして、俺が襲われた報せを聞いたから、無事な姿を見てほっとしている……とか?) しかし、シキの眼差しはとてもではないが、安堵している様子ではなかった。今のような彼の目には、見覚えがある。トシマでnに向けていた憎悪の目だ。そうと悟った瞬間、アキラは急に怖くなった。なぜシキが自分を憎むのか、理解できない。何かの間違いではないか……? きっと勘違いだと自分に言い聞かせて、アキラは明るく声を掛けた。 「シキ。おかえり」 しかし、その言葉への返事は予想もしないものだった。 「アキラ……。お前は何をしている?」 シキに言われて、アキラは自分のいるベッドの上を見回した。幾冊もの本が広げっぱなしになっている。最近よく見る廃墟の夢について、調べようとして読んでいる本だ。シキの書架から勝手に拝借したものもあれば、部屋を出入りするシキの部下に頼んで入手してもらったものもある。 一瞬、アキラは素直に調べものをしていたのだと告白しかけた。けれども、シキの表情に何となく真実を告げるべきではないと直感する。結局、アキラは嘘をつくことにした。 「……あんたがずっといなかったから、退屈だったんだ。それで本でも読んでようかと思って。すまない。あんたの本棚からも借りた」 「――ぜ……だ……」 不意にシキが掠れた声で呟く。アキラは「え?」と聞き返した。それがきっかけになったかのようだった。大股に歩いてきたシキが、唐突に手を振り上げる。あっと思ったときには既に遅い。振り降ろされた拳が、アキラの頬を打っていた。 何の構えもなく殴られたアキラは、ベッドの上に倒れた。あちこちに投げ出していた本の角が身体に当たって、新たな痛みが生じる。 「っ……。シキ……何を……」 アキラは痛みに耐えながら、上体を起こした。途端、シキに両肩を掴まれる。 「なぜだ……」呻くようにシキは言った。 「えっ……?」 「なぜだ。なぜお前は正気でいられる!? 俺に好き勝手に犯されて、こんなところに閉じこめられて……なぜ憎まない!? 殺したいと考えないのか?」 「何を言ってるんだよ? 憎まなかったわけない。……それでも、あんただから、憎みきれなかったんじゃないか。あんたは……よく分からないけど……何て言うか……特別な相手だから」 「なぜ俺の仕打ちを許すことができる? ……いや、それよりも今の俺はお前が“特別”だと感じた俺なのか? 違うだろう。俺は変わった……。お前だけが以前と変わらず正気のままで……お前はニコルの狂気に染まった俺を、あざ笑っているんだろう!?」 「シキ……?」 アキラは自分の肩を押さえつけるシキの顔を、呆然と見つめた。そこで気づく。彼の白い面に浮かんでいるのは、憎悪だけではないようだ。 ――恐れている? 今の今まで、アキラはシキを誤解していた。彼はニコルウィルスを取り込んで強くなったことを喜んでいるのだろう、と。こんな風に自身の変化を恐れるかのようなシキは初めてだった。 なぜ今、シキはそのような表情をするのか。ニコルウィルスを取り込んだ彼は最強ではないのか? 「あんた……何を怖がっているんだ……?」 思わずアキラが尋ねた途端、シキの顔が目に見えて強ばった。 「怖い? そうだ。お前は俺の心を揺るがす。ニコルウィルスを取り込んで、弱さを克服したはずのこの心を弱くする。……お前のせいで、俺は弱くなる。これでどうして、お前を憎まずにいられようか」 「あんたは俺が憎いのか……? 不要なのか? 俺はあんたの所有物だと、あんた自身が言ったのに」 アキラは呟いた。ひどく掠れた声が出た。そこで初めて、シキに憎まれているという事実に傷ついていることを自覚する。 こんな風にシキに憎まれるために、傍にい続けたわけじゃない。もうこれ以上、シキに失望したくない。そう思うのに、シキは言葉を止めてはくれなかった。 「――俺は主を脅かす所有物など要らん。お前は何も見ず、聞かず、考えず……ただ俺の傍に在ればいい。そのために俺はお前をトシマから連れて来たんだ」 シキのその言葉は、肺の腑を抉るかのような痛みをアキラにもたらした。以前、トシマでアキラの反抗的な目を見て『いい目だ』と誉めたシキ。アキラをしなやかで荒々しいと楽しげに形容した彼は、もはやいない。シキは――彼自身の言うとおり――変わってしまったのだ。今のシキはアキラをアキラ自身としては、必要としていない。――だとしたら、自分がここにいるのは何のためなのか。 アキラは強烈な虚無感に捕らわれた。力なくシキを見つめたところで、ふと気づく。 自分はこのままでいいのか? 受動的に、ただシキに必要とされるためにここにいるだけでいいのか? そうしてシキは変わってしまったと、嘆き続けるだけなのか? ――それは違うだろ。 アキラは左手を握りしめた。そこに刻まれた古傷――ケイスケを失ったときの傷跡に、きつく爪を立てる。シキが変わってしまったとしても、自分にはまだ自分の意思がある。以前のシキを取り戻すために、抗うための力はまだ残っているはずだ。 そう考えて、シキを見つめる目に力を込めた。そのときだ。不意にシキの背後に、冷え冷えとした廃墟が“視え”た。その光景にアキラは不意に悟る。おそらく自分が見るようになった夢の中の廃墟は――シキの心を表していたのだろう、と。 夢の中で、あの廃墟は無人ではなかった。姿こそ見えなかったけれども、時折、シキの気配を感じることがあったのだ。もしかしたら、ニコルウィルスの狂気で荒れ果てた彼の心には、失われたはずの人間としてのシキが眠っているのではないだろうか……? それなら――。 アキラは右手でシキの腕を掴んだ。 「……シキ。あんたが望むなら、俺は正気を捨ててやる。だけど、それはあんたの救いにはならないぞ」 「何を言っている……?」 「俺が狂ったって、あんたは少しも救われない。きっとあんたは俺といながら一人ぼっちになって、苦しむだけだ」 「苦しむ? 俺がそんな弱者の感情を持ち合わせているものか」 シキは鼻で嗤った。その彼の腕を、アキラは咎めるようにぐぃと引っ張った。 「聞け。俺があんたの望み通り、狂ってやる。そうして本当のあんたを探しにいく。……でも、もしもすべてに耐えられなくなったら、助けてくれと言え。そうしたら、俺は帰ってくる」 「馬鹿な。俺が己よりも弱いお前に、救いを求めるとでも思うのか?」 「さぁな。だけど、他に道がない。――それじゃぁ、シキ、さよならだ」 アキラは目を閉じて身体の力を抜いた。途端、意識がふわりと拡散する。自分自身が現実の肉体から離れるのを感じた。アキラ、と自分を呼ぶシキの声が、遠くなっていく。 次の瞬間、目を開けたアキラは廃墟の夢の中にいた。ひゅうひゅうと風が泣くような音を立てて吹いている。 「――シキ。あんたが捨ててしまった人間らしい心、俺が必ず見つけてやるから」 そう呟いて、アキラは廃墟の中を歩き始めた。 *** 黒塗りの高級者が、高くそびえる建物の前に停まっている。周囲には黒服の礼装姿の人々が集まっていた。 今日は〈ヴィスキオ〉の王であるシキが、新たにトシマに完成した本拠地――城と呼ばれている――に入る日だった。礼装の人々はその王を迎えるべく、こうして集まっているのだ。まるで一国の王に対するかのような盛大な出迎えだった。 しかし、〈ヴィスキオ〉の構成員たちのそうした態度もおかしくはない。内戦や世界の不況のために力を失いつつある日興連やCFCに代わって、一麻薬組織であるはずの〈ヴィスキオ〉はどんどん力を付けてきている。〈ヴィスキオ〉の事業はこのニホンの様々な業界に入り込み、〈ヴィスキオ〉なしでは経済が立ち行かないのではないかと思われるほどだ。〈ヴィスキオ〉の王であるシキが、いずれ実質上のニホンの支配者になる日も遠くないとも言われている。 警護の任に就いているトモユキは、黒塗りの車を遠巻きに眺めながら眉をひそめた。麻薬組織がこのニホンを支配するなど、正気の沙汰ではない。第三次大戦の後の混乱期でさえ、ニホンの国内はここまでひどくはなかったのに。いったい、なぜこんな狂った世の中になってしまったのだろう、と内心でため息を吐く。 と、そのときだった。人々の歓声が高まる。車から王その人が降りて来たのだ。王――シキは、先日トモユキが会ったときと同じような黒ずくめの格好をしている。実質上のニホンの支配者になると言われているが、シキの格好は畏まった礼装ではない。けれども、豪奢な衣服などまとわなくとも、そこにいるだけで王侯貴族のような存在感を醸し出している。 そのシキの後に続いて降り立った人物に、トモユキははっと息を飲んだ。ほっそりした青灰色の髪の青年――王の愛妾のアキラだ。数日前に出会った彼は、そのときとはまったく違う雰囲気をまとっていた。強い意思を宿していた瞳はぼんやりとして、きりりとしていた顔もまるで子どものようにあどけない。その癖、滴るような色気が細身の身体にまとわりついている。 (何があったんだ……?) トモユキは不審に思った。 と、すぐ横でくつくつと嗤う声がする。トモユキはぎょっとして、傍らを見た。隣りに立つ人物が、口元を押さえて忍び嗤いをしている。短く刈り込んだ茶色の髪と黒い目、青年と少年の境目で危ういバランスを保っている容貌。 「……リン」 トモユキは咎める声で相手の名を呼んだ。と、リンがトモユキを見て「ごめん」と小声で謝る。しかし、その表情にはまったく反省の色は見られなかった。トモユキは見慣れないリンの格好への違和感を腹に抱きながら、ため息を吐いた。 先日、手柄を立てたトモユキに、リンは褒美が出るのではないかと予測した。彼は自分を手下として〈ヴィスキオ〉に入れるようにと求めた。トモユキは――抜け殻のようだったリンが初めて気力を見せたこともあり、彼の求めを承諾した。まさか、リンの予想通りになることはないだろうと考えて。 しかし、リンの予測は的中した。トモユキは王の愛妾を救った功績を評価されたため、リンとの約束通り彼を自分の手下として〈ヴィスキオ〉に推挙したのだ。とはいっても、リンは昔、仲間を殺されたときにシキに遭遇している。万が一、シキが顔を覚えていたときのことを考えて、彼は髪を切って染め、カラーコンタクトを入れてがらと印象を変えてしまった。その上で、リンは左足が義足というハンデを背負いながらも見事に試しに合格し、晴れてトモユキの配下となった。 トモユキは自分のしたことを、少し後悔し始めている。それは自分が気に入っていたリンの青い目や金の髪を見られなくなったせいだけではない。いくらリンを生きる気にさせるためとはいっても、彼の目的を復讐に向けさせてはならなかったのではないか。あのまま穏やかにアパートの一室で過ごしていれば、いつかリンは復讐を諦めて穏やかに笑うようになったのではないか――。 「トモユキ。そんな顔しないでよ。俺を配下にしたこと、後悔してるんでしょ」不意にリンが小声で言った。 「……リン」 「後悔なんて意味がないよ。俺はもう、憎しみなしでは生きていけない。トモユキが俺を配下にしなくたって、いずれ俺はここに立つ運命だったと思う」 「おい、誰かに聞こえたら……」 「大丈夫。この歓声じゃ、他の人間には聞こえないよ」リンは笑みの形に唇を歪め、熱狂する人々へ視線を投げた。その先に、シキとアキラがいる。「俺はあいつを許さない。俺の仲間を殺して、俺の足を奪っただけじゃまだ足りないのか。俺の友達だったアキラをあんな風に狂わせて、この国を支配しようとしている……」 ――俺はあいつを殺すよ、必ず。 歓声を上げる群衆の中で、リンはひどく暗い目をして呟いた。その声にトモユキは悪寒さえ覚える。しかし、たしなめようにもリンの憎悪の眼差しの暗さに呑まれたようになって、言葉が出てこなかった。 2012/12/28 目次 |