4.





 翌日から私は<城>に身を寄せ、閉店の決まった“Meal of Duty”の店内の片付けを始めた。
 片付けといっても、ラインのアンプルやその管理簿など<ヴィスキオ>の機密に関わるようなものは昨日のうちに黒服たちの手で運び出されている。残るは店内の整頓や食器類の運び出しなどだが負傷したマスターはいまだに療養中で、実質私が一人でしているのだから作業はあまり捗っていない。

 そして、作業開始から2日目の今日、私は朝から惨劇の現場となったフロアを掃除することにした。

 店の奥や倉庫と違って、フロアはこの場で起こった惨劇の名残のままに壁に、血糊が塗りたくられ、床は血溜りが乾燥して出来た大小の染みがそこここに散在している。被害者の遺体は事件直後に黒服たちが運び出していたが、それでも私は初日に足を踏み入れた瞬間吐きそうになったものだ。
 それを何とか堪えたのに、同行してきたグンジが自分も立ち会ったからと事件直後の様子を嬉々として語るので、いよいよ堪えられなくなって店の奥の炊事場へ駆け込んだ。が、グンジは更に追ってきて、嘔吐する私の隣でご丁寧にも続きを話して聞かせてくれた。
 かなり最悪な体験ではあったが、始終換気してもまだ血臭の残るフロアに取り掛かろうと決心できたのは、彼の地味な嫌がらせで免疫がついたからかもしれない。
 グンジが私に同行したのは、シキと争って<城>の石膏像を壊した罰としてアルビトロに命じられたからだ。監視役なのか手伝いなのかアルビトロの意図は掴めないが、こちらから見れば単なる邪魔者である。グンジは私が掃除する傍らでほとんどの時を昼寝したりボンヤリしたりで過ごし、それにも飽きたときだけ手伝いたいと駄々を捏ねた。もっとも、その手伝いも飽きればお終い。そんな風であったから、私は次第に聞き分けの無い子どものお守りをしているような心境になっていった。それに、邪魔者であっても殺人の現場で独りになるよりは、居てくれる方がずっと有難い。
 今日は午前中からグンジは長椅子で昼寝をしていて、あまりこちらに話しかけてくることはなかった。だから、私はフロア中の椅子やテーブルを隅に寄せたり大き目のゴミを拾い集めたりして、大いに作業を進めながらグンジが大人しいことに感謝していたのだが――。


 ちょっと倉庫から雑巾を取って戻ってきて、カウンターの傍を通り過ぎようとしたとき。不意にくぃっとエプロンの端を引っ張られる感覚があった。見ればカウンターの陰から白い腕が一本突き出ていて、エプロンの布地を掴んで引っ張っている。私は驚きのあまり声も出せず、ただその腕を凝視する。そうしているうちに、腕は更に強くエプロンを引いた。
 「ひっ…」

 ――死者が、道連れを探している。

 そんな恐怖に襲われて、白い腕から離れようとする。が、腕がエプロンを放してくれず、体勢を崩した私はその場に尻餅をついた。すると、白い腕はあっさりエプロンの布地を放して、今度は私自身に向かって手を伸ばしてくる。その指先が目の前まで来るのを見て、私はきつく目を瞑って必死に咽喉に詰まった声を押し出した。
 「…、けて…グンジ…――グンジっ…!!」
 喚いた言葉に他意はなかった。現在私以外に店内にいるであろう唯一の人間だから、その名を口にしただけだ。無理に発した声はやはりすぐに枯れて、私は恐怖に浮かされたまま掠れ声でなおも助けを求めようとした。「お願いだから…助けて…」
 けれど、いつまで経っても白い腕が触れてくる気配は無い。
 不思議に思って目を開けると、目の前であの腕が静止していた。恐る恐る視線でその先を辿ると、カウンターの陰に隠れるように屈んで右腕を持ち上げているのは――。
 「――グンジ…」
 目を丸くして同じ姿勢で固まっている彼の姿を見て、私は猛烈に腹立たしくなった。
 私があまりに情けな過ぎる反応をしたものだから、呆れてものも言えないのか。そう思いながら、目の前にある指先をあまり邪険にならないように力加減しつつもきっぱりと払い除けた。
 「悪ふざけは止めろって何回も言ったのに。どうせ俺はあり得ないくらい怖がりだよ。今だって本気で怖がってたよ…」
 シャツの袖口で滲んだ目元を乱暴に擦りながら、思わず恨み言が口を突いて出る。そして、言い終えてしまうと自分の態度があまりに幼稚で女々しすぎる気がして、じわじわと頬が熱くなってきた。
 せめてここで嘲笑でもしてくれればまだ良かったのだが、グンジは今もまだ呆然とこちらを見るばかりだ。居たたまれなくなった私は、勢いよく立ち上がると一目散に店の出入り口へと向かった。
 店の出入り口には、防音の一環なのか重い扉が取り付けられている。開くのに少し力が要る上にこの扉は内開きなので、急ぎでも自然と手前で立ち止まることになる。まさにその定位置で立ち止まった私は、扉を引いて開きながらふと視線を下に落とした。
 ちょうど靴の下には、一際大きな黒ずんだ染みが広がっている。
 惨劇のあった晩、大勢の客が我先に難を逃れようと扉に殺到した。誘導する者もなく混雑した入り口の前で、犯人は外へ逃げることもできない者を何人も殺した。その数は、全体の被害者の3分の1に当たる。グンジが、そう言っていた。

 “店を襲ったの、あのケイスケって子だった”
 “多分、ラインをやったのね”

 ラインを服用すると、目が濁って顔や首筋の静脈が浮かび上がるので、すぐにそれと分かってしまう。況してや日々ライン服用の場面を見ているマスターが、判断を誤ることはまず無い。それに、一度店に来た客の顔は殆ど覚えてしまうマスターであるから、ケイスケと他の誰かとを見間違えた可能性も低い。
 猛に続いてケイスケまで…どうしてラインなんか。 
 知人が麻薬を服用した。直接売ったわけでないにせよ、私は店でその麻薬を売っていた。そんな今更な事実を確認するのは、昨日ここに足を踏み入れて以来もう何度目になるだろう。
 けれど、罪悪感を感じてみたところで過ぎたことは取り戻しようもない。また、私がトシマで生きるには、この店で働くしかなかっただろう。それなのにずっとそのことに捉われ続けているのは、きっと自分を責めればその分だけ罪が軽くなるような気がするからだろう。あくまで気がするだけで事実は同じなのに、それでは単なる逃避だ。
 苦い思いで罪悪感を振り払いながら、私は扉の残り半分を開ける。と、「待てよ、おい」と少し慌てたようなグンジの声が後ろから投げかけられた。

 「ちょっと血の臭いに酔ったみたいだ。ひとりで外の空気でも吸ってくるよ」

 振り向かずに明るい調子でグンジに応じてから、外へ続く階段へと出る。途端に、外の清々しい空気が地下まで流れ込んでくるのが感じられて、私はいつからか緊張していた身体の強張りを解きながら階段を上った。


 大通りに面した階段の入り口に立って、深く息を吸う。そうやって数時間ぶりの血臭のしない空気を肌で感じながらも、私は自然と辺りに視線を巡らせている。というのも、待ち人がいるせいだ。
 私はマスターの話をアキラに伝えたいと思っている。ケイスケがラインを服用したこと、殺人を犯したことを知ったら、以前から友人同士らしいアキラは悲しむだろう。けれど、それでも何も知らずにケイスケと接するのは、危険すぎる。辛くともケイスケのことは知っておく方がいい。
 そこで昨日の時点で滞在しているかと思った中立のホテルに会いに言ったのだが彼は居らず、やむなく会って話がしたいという伝言を従業員に託してきたのだった。
 まぁ、ちょうど私が外に出たときにアキラが通りかかるなんてタイミングの良いこと、あるはずないか。――結局諦めて、最後に一つ大きく伸びをして、再び店内に戻ろうとする。と、ちょうど階段を上ってきたグンジと鉢合わせになった。うっかり体当たりしてしまった私を、グンジは危うげもなく肩を掴んで受け止めた。
 「あ、ごめん…」咄嗟のことに先程の気まずさも忘れて謝ると、
 「別に。ネズミごときの体当たりで吹っ飛ぶ程、オレ、弱くないしー」投げやりな声音で言いながら、グンジは存外穏やかに私を押しのけて大通りへと歩み出た。「つーか、さっきの、悪かったな。まさかあれで泣くとは思ってなかったからよー」
 「あれは、泣いたんじゃなくて……その、目にゴミが入っただけで」
 「何そのダセェ言い訳。もっとマシなの考えろよな」
 そう言ってげらげらと馬鹿笑いしたグンジは、しかし次の瞬間はっと表情を変えた。宙を睨みながらスンと鼻を鳴らし、「甘ぇ匂いだ…」暗い愉悦に満ちた声音で低く呟くと、ぱっと身を翻して走り出す。そのときの彼の目は、明らかに処刑人として仕事をするときの狂気を湛えたもので。
 一体何事か、と慌ててグンジの向かう先に視線を向けた。と、見知った姿が目に飛び込んで来る。それでは、グンジが見つけた“獲物”とは、まさか――

 「アキラ…っ」

 私はグンジの後を追って走り出した。




***


 ひどく疲弊した気分で、アキラは中立地帯のバー“Meal of Duty”への道を辿っていた。


 ――話があるから、会いに来てほしい。
 ――俺は、昼間は“Meal of Duty”で店の片付けをしてるから。

 昨夜戻った中立のホテルで受け取った伝言。託されたホテルの従業員によれば、伝言の主はという“Meal of Duty”のウェイターであったという。それを聞いてアキラの中で真っ先に沸き起こったのは、疑念だった。
 とは、リンにバーへ連れて行かれたあの一度きりしか言葉を交わしていない。話があると言われても、どんな内容か心当たりもない。そうでなくても、“Meal of Duty”は大量殺人のあった翌日にうっかり足を踏み入れて猛に襲われた場所なので、そこに呼び出されるのはどうしても警戒心が先に立つ。けれど。
 (は、ケイスケの情報を持っているかもしれない…)
 もしかしたら、ホテルを飛び出した晩ケイスケは“Meal of Duty”に行ったかもしれない。トシマの夜歩きが危険だということは散々源泉やリンから注意を受けていたから、ケイスケもあの直後一旦はどこか建物に身を落ち着けたはずだ。それがどこかの廃墟ということもあるが、中立地帯の可能性も高い。そして、アキラやケイスケが知る中立といえばホテルとバーくらいのものだった。

 どうせ今だって全く情報の無い状態なのだ。
 にケイスケを見なかったか尋ねてみるくらいしても損は無いだろう。

 そう思ったので、アキラは結局その夜はホテルで明かして、翌日“Meal of Duty”へ行くことに決めたのだった。
 このところ頻繁に無差別殺人が起きて更に治安の悪化したトシマの街の空気は、表面上は静かなまま水面下にひりつくような緊張を孕んでいるかのようだった。これまでも静かなようでいて常に獲物を探しているような緊張感はあった。が、今はむしろ、何時自分自身が犠牲者になるかもしれないという恐怖や不安が色濃いような気がする。
 バーでの大量殺人の後に頻発していたイグラのバトルも、今は下火になっている。参加者たちは中立や廃墟の中にじっと身を潜めているのだろうか。おかげでアキラは前日のような参加者との小競り合いもなく、トシマの街を歩いていくことができた。
 2、3度少し離れたところで人の気配を感じもしたが、いずれも姿を見せずに離れていく。互いに不安や苛立ちを抱えた状態で顔を合わせれば大抵バトルになるから、それを避けたかったのだろう。あの外見に似ず神経の太いリンでさえ、出くわしたアキラを敵と間違えて攻撃してきたのだから。
 (そういえば、リンが…)
 ふと思い出して、アキラはジャケットのポケットを外から手で押さえた。くしゃりと微かな紙の音がする。昨日リンから渡された地図を、そこに入れたままだったのだ。見せたいものがあるから、と半ば強引に取り付けられた約束が今日だが――果たしてあのとき血相を変えてシキを追って行ったリンは、無事でいるだろうか。一瞬そんな思考に気を取られたとき、
 「よぉ、アキラァ…」
 最早耳に馴染んだ声が、聞いたこともない暗い響きを伴ってアキラの耳に届く。
 はっと顔を上げると、あまり広くない路地の出口を塞ぐように立っているシルエットが目に飛び込んできた。


 …どれだけ時が経っただろう。
 アキラは石のように重く感じる身体を叱咤して、寄りかかっていたビルの壁から離れた。のろのろと鈍い動作で周囲を見回すが、すっかり変わってしまっていた幼馴染の姿も気配もどこにもない。まだ近くにいるかもしれないが、先程の憎悪を剥き出しにしたケイスケの言葉を思い返せば、追いつけても何をどう話したらいいのか分からない。
 悲しいのか困惑しているのか恐ろしいのか、ケイスケに対する自分の感情も最早滅茶苦茶で――こんな状態で、追うことはできないと思った。

 “すっごく会いたかったよ…アキラに”
 “俺はさ、何も変わってないよ――ただ、ほんの少し自分を楽にしてやっただけなんだ”
 “見てくれた?中立地帯のバー…記念すべき俺の初舞台だ”

 ケイスケの声に含まれていた、暗い愉悦。見たこともない表情。ケイスケとは思えない、思いたくない――けれど、あれはケイスケだった。どうして豹変してしまったのか。切欠は先日投げつけた言葉なのか、それともアキラが気づかないだけで以前からケイスケの中に存在していた部分なのか。
 (俺は…あんなことを言ったけど、きっと、ケイスケを見つければまた元通りに戻れるなんて気楽に思い込んでいたんだ…)
 予想を悪い意味で裏切られて、緊張の糸が切れたのだろう。今までの疲労が一気に押し寄せてきて、アキラはやけに重い身体を引きずるように歩いていく。どこかで休みたいと思いもしたが、そうするうちに状況が更に悪くなっていくような気がしたのだ。


 自棄になって進みながら、アキラは特に考えることもなく当初の目的地であったバーの方へ足を向けていた。目立つのを避けるために細い路地から路地を縫うようにしばらく歩いて、とうとう大通りに行き当たった。通りを挟んだ向かいには、“Meal of Duty”の看板と入り口がある。
 アキラが路地の出口を踏み出そうとしたとき、ちょうど地下への階段を上って店内から外へ出てきた者があった。黒いエプロンを着けた、細身の青年――だ。特に周囲の気配を探る素振りもなく一歩大通りへ出ると、彼はのんびりと伸びをした。それから、何かを探すように周囲を見回す。そうやって、少しの間何かを探していたが、見つけられなかったのだろう、結局店の中へ入りかけた。
 ちょうどいい。追いかけよう。
 そう思って歩き出そうとしたとき。階段を上ってきた人物と下りようとしたがぶつかるのが見えて、アキラは息を呑んだ。細身とはいえほぼ成人男性であるの身体を、危うげもなく抱きとめた相手は――。
 「グン、ジ…」
 あの恐ろしい処刑人が、と共にいる。その状況に呆然として事の成り行きを見守っていると、グンジはを甚振ったりはせずごく普通に会話を交わし、笑いさえした。その親しげな様子に、アキラははっと思い至る。の誘いは、おそらく罠だったのだ。<ヴィスキオ>は自分がCFCから送り込まれた人間であることに気づいて、排除しようとしているのかもしれない。
 (くそっ…!)
 内心で毒づくと、アキラは踵を返して足早に来た道を戻る。目立つ動きをすれば見咎められるので、走り出すことはできない。そうして、路地を幾らも行かないうちに背後に強烈な気配を感じた。
 振り返らなくても分かる。この殺気は、グンジだ。
 とうとうアキラも走り出すが、あっという間に足音が間近に迫る。同時に――

 「アキラ…っ」

 自分を呼ぶ微かな声を聞いた気がした。


***


 「おっと、子猫チャンどこ行くんだ〜?」
 あっという間にアキラに追いついたグンジが、右腕を捻り上げて拘束しながら嗤う。対するアキラは痛みに顔をしかめながらも振り向いて、気丈にもグンジを睨みつけた。
 「はなっ、せ、よっ…!」呻くような低い声でアキラは訴えるが、
 「ばーか、放したらオメエ逃げるじゃん?誰が放すかよー」グンジは鼻で笑って取り合わない。
 「グンジっ…――やめろっ!!」
 揉み合う2人のもとへ走りながら、私は上がった息の下から切れ切れに叫んだ。だって、こんな誰かが傷つくのは、やっぱり見たくない。止められるものなら、止めたい。
 「んだよ、ネズミ!」
 私の声を聞くとグンジは、ぎょっとした面持ちでこちらを見た。その目にはあの狂気はない。先程までのグンジに戻ったことに私もほっとしかけたとき、不意にアキラがグンジの腕を振りほどいて逃げ出そうとした。が、体勢を崩して転倒してしまう。
 「ちっ、手間掛けさせやがって…ヨワヨワなネコの癖に!!」
 思わぬ抵抗に苛立ったグンジが喚きつつ、僅かに身構える。――あれは、蹴りを繰り出すのか。「駄目だっ!!」はっと気づいた私は、咄嗟にアキラとグンジの間に割り込んだ。グンジが蹴りを放つのと私が彼の足に跳び付くのがほぼ同時。私はグンジの蹴りの衝撃をまともに受けて吹っ飛び、傍のビルの壁面に強かに背を打ち付けた。
 「っ…!」
 背を打った痛みを、息を詰めて堪える。そうやって目をきつく閉じて身体を丸めていると、おずおずと近づいてくる靴音がアスファルトを通して伝わってきた。「……!」間近で聞こえるアキラの声に、私は目を開けて彼を見ることで返事に変える。
 「大丈夫か…?――あんた、何で1度しか話したこともない俺を庇ったんだよ。何の目的で」
 堰を切ったようにアキラが訴える。どうして?――ただ、見過ごすのは嫌だったから。そうアキラに答えようとしたが、そのとき別の靴音が近づいてきた。こっちの音は、グンジか。私は視線だけを動かして、傍まで来たグンジを見上げた。
 「何やってんだよ、テメェ!?バッカじゃねーの!!」噛み付くように喚いたグンジは、しかし、そこでトーンを落した。「ビトロからテメェを見張りながら守れって言われてんだ。せっかく子守りしてやってんのに、自分から怪我してんじゃねー…大体、テメェ弱っちい癖に他人を庇えた義理かっつーの」
 子守り、か。まさか互いに同じ気分でいたとは。今はどうでもいいようなことが妙に可笑しくて、私は吐息だけで苦笑する。しかし、笑うとそれが吐息だけでも、身体に響いて少し苦しい。
 「アキラは…俺の知り合いなんだ…――傷つくのを、見たくない…」
 身体に響くのを堪えて何とかそれだけ告げてふと見れば、グンジと、それにアキラも鳩が豆鉄砲を食らったみたいに目を丸くしていた。2人揃ってというのが、何だか可笑しい。もしも痛みさえなければ、腹を抱えて大笑いするところなのだけれど――残念だ。そう思ったのを最後に、私の意識は遠退いていった。








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