2.
気がついたとき、私はどこか薄暗い場所に横たわっていた。身体の下にあるのはコンクリートのようで、じかに接している頬や手に砂と埃の混じった不快な感触がある。私は顔をしかめて上体を起こし、手の埃を払ったり袖口で頬を擦ったりした。 ひとしきり埃を落として落ち着いたところで、辺りを見回してみる。自分が建物の中にいることだけは何となく分かったが、それ以上は暗くてよく見えない。私は通り魔に車道へ落とされて、車に撥ねられたはずだ。それが何をどうしてここにいるのか、その間の記憶がすっぽりと抜け落ちている。 跳ねられたときから、一体どれくらい経っているのだろう。 (そういえば、私、怪我したはずなのに…) 目が覚めてから少しも脇腹に痛みを感じていない。ふとそのことに気付いて、私は左の脇腹に手を触れた。衣服は裂けているものの、その下の皮膚にはぱっくりと口を開けて血を流す傷口はない。代わりに、皮膚がひきつれてた部分が斜めにできている。ケイジの胸にあった古傷と同じ手触りだが、そんな傷跡は今まで私の身体にはなかったはずだ。 とすると、この傷は通り魔に付けられた傷なのだろうか――。 混乱しながら、私はその場で立ち上がった。 とにかく現在の状況を知ろうとして足を踏み出した途端、足元にあった何かを思い切り蹴飛ばしてしまう。ガタンと音を立てて転がったのは、暗くて形も定かではないが、木箱か何かのようだ。それを蹴った拍子に体勢が崩れて、私は前のめりになりながら、咄嗟に傍の壁に手を伸ばした。 と、壁に縋った手が偶然出っ張った何かに引っかかる。 私は手で撫でてその出っ張りの形を確かめた。きっとドアのノブだろう。試しに回してみるとドアに鍵は掛かっておらず、ノブはあっさりと回転する。ゆっくり押せば、カチャリと小さな金属音がして、ドアが細く開いた。 *** じっとロザリオを見つめていたシキが、不意に顔を上げる。 その視線がドアへと向けられるのを見て、ケイジはぎくりとした。まさか、部屋の外に誰かいるのだろうか。だが、それならば、自分はともかく、シキが今まで侵入者に気付かなかったのは奇妙なことだ。 相手はシキをも凌ぐ手練れなのか――。 ケイジはそっとシキの表情を盗み見たが、シキに特に警戒している様子はない。侵入者が取るに足らない相手で、余裕を保っているというのも何か違う。真っ直ぐに部屋の戸口を見つめるシキの横顔には、驚きと、そして僅かに期待の色さえ浮かんでいるようだった。 期待――けれど、一体何を…? そう思ってケイジが内心首を傾げたとき、廊下でガンッと何かを蹴飛ばしたような物音が聞こえてきた。それに続いて、部屋のドアがガタガタと音を立てる。手練れどころかトシマにいる者ならば、誰が潜んでいるとも分からない廃墟で不用意な物音を立てるなんてヘマはしない。というより、そんなヘマをする人間は生き残れない。ケイジは更に怪訝に思って、今度は実際に首を傾げた。 そのとき、カチャリと小さな音を立ててドアが開く音がした。 ここへ入ってくるつもりか。ケイジは反射的に、腰のナイフホルダーに手を伸ばす。すると、シキは刀に手を掛けるどころか、制するようにケイジの前に腕を伸ばした。 「何でとめる?」ケイジは囁いた。 「この気配が分からないのか?これは、」 「――シキ…それに、ケイジ…?」 女の声がシキの言葉に被さる。 おずおずと戸口から入ってくる華奢なシルエットに、ケイジは息を呑んだ。 魔窟と呼ばれるほど治安の悪化したトシマに、女はいない。 普通なら多少治安が悪くとも移り住むことのできない住人は残るものだし、荒っぽい男を相手にする娼婦なども出てくるところである。けれども、トシマは戦争で壊滅的被害にあって最初から殆ど住人がいなかった上に、イグラというバトルゲームの舞台となった。とても家族や夫婦で日常生活を送るような場所ではない。それに、イグラのルールとして金銭の代わりにタグを使用したため、参加者を相手に稼ごうという娼婦も出てこなかった。こうして、女のいない街という奇妙な場所が出来上がってしまった。 そこに、女がいる。 しかも、女は自分やシキを知っている。 そういう女といえば、ケイジにはただ一人しか思い当たらなかった。そんなことはあり得ない、と理性が否定したが、シキの態度を見るにつけてもその思いつきは正しいとしか思えない。 ケイジはいまだ半信半疑で、それでも込み上げる懐かしく泣きたいような感情を紛らわそうと、シキの腕を軽く引っ張った。そして、からかいを込めて小声で囁く。 「あんた…あいつのことはよく分かるんだな」 シキは眉を上げたがそれだけで、あっさりとからかいを黙殺した。 *** 開いたドアに誘われるように、私は生活感のない荒れきった部屋へ入っていった。誰もいないかと思った部屋の寝室にいたのはシキとケイジで、私はようやくここがトシマなのだと理解する。 「――シキ…それに、ケイジ……私、自分の時代にいたはずなのに…どうして…?」 呟いたとき、ベッドに座っているケイジが私を呼んだ。そこで、寝室の奥へ進み、窓際に寄せて置かれたベッドの傍へ歩いていく。最初に私がここで目覚めたときやシキに繋がれたときと同じように、今日も窓から月明かりが差し込んでいて、ベッドの周辺はぼんやりと明るかった。 傍へ行くと、シキはこちらを見て僅かに目を細めた。その反応に、急に不安になる。 いくら知り合いといっても、シキは私の本来の姿を見たことはない。きっと、不審に思われているのだろう。お前など知らないから出て行けと言われたとしても、仕方がない。いつそう突き放されるだろうと、びくびくしながらシキの顔色を窺った。 けれど、シキは何も言わない。 堪えきれなくなった頃にもう一度ケイジに呼ばれて、私は気にしないふりをしてケイジの方へ向き直った。 ずっと同じ身体にいたのに、いや、同じ身体にいたからこそか。 あまり目にすることのなかったケイジの顔は、思っていたよりもずっと穏やかで落ち着いていた。私は今まで彼の本来の表情を見たことはないが、もっと気の強そうな印象があったので、少し意外に思う。 しかし、違和感を覚えていたのはケイジも同じらしく、手を伸ばして私の頬に触れた。 「、なんだよな…?あんたって…何ていうか、思ってたより…」意味ありげな沈黙に焦れて思ってたよりどうなのだと先を促すと、ケイジは何故かちらりとシキに視線を走らせた。それから、ふと苦笑を浮かべる。「…案外不細工だな」 「なっ…そういうことは思っても言わないものでしょう、普通」 「そう怒るなよ。怒るともっと不細工になる」けらけらと笑ってケイジは私を宥め、それからふと柔らかな笑みを浮かべた。「――とにかく、あんたが無事だと分かってよかったよ。急に消えるから心配した」 「ごめんなさい、黙っていなくなって。気がついたら、元の時代に戻っていて、どうすることもできなかった。私が消えてからどれくらい経ったの?あなたのお兄さんは?」 「あんたが消えてからだいたい半日くらいかな。兄貴は…死んだよ。俺の錯覚かもしれないけど、最後に俺のことが分かったみたいだった。人に戻って死ねたんだろうと思う」 そう言いながら始終穏やかな表情のケイジは、どこか達観してしまったように見えた。或いは、辛さを表に出さないようにしているのかもしれない。どちらにせよ、あれほど想っていた兄の死を開けっぴろげに嘆き悲しむことができない状態というのは、どこか人として危ういし、痛々しくも感じる。 それでも、私はそう感じたことをケイジに黙っていた。本人が平静な様子を見せているということは、同情など欲しくないのだろうと思ったからだ。けれど、顔には出ていたらしく、それを見てケイジは微かに笑った。 「あんたがそんな表情してどうするんだよ。泣いたら余計不細工になるぞ」 そして、湿っぽくなった雰囲気を紛らわすかのように話題を変えて、また私がトシマに戻ってきたわけを尋ねた。けれど、私にも分かるわけがない。思い当たることといえば、通り魔に突き飛ばされたせいで車に撥ねられたことくらいだ。そう言うと、そばで黙って聞いていたシキが「では、もとの時代で死んでいるところを、その代わりにこちらに戻ってきたということか」と呟いた。 その発言で、シキがタイムスリップしたという私の言葉を信じていてくれたことにも改めて驚きを感じたが、それ以上に急に不安になり始めた。 もとの時代で、私の存在はどうなったのだろう。 車に撥ねられたところは妹も見ているはずで、それから急に私が消えてどう思っただろう。両親や祖父母も、どれほど心配しているだろう。 また戻ることができるのだろうか。どうやって戻ればいいのだろうか。戻れるとしても、前回と同じようにタイムスリップした瞬間に戻るならば、私は――果たして、生きていられるだろうか。 そんな私の不安を見越したかのように、不意にケイジが口を開いた。 「あんたは、もうずっとここにいればいい。家族が恋しいのは分かる。だけど、戻ったら死ぬかもしれないんだし、ここにいるべきだ。あんただってもういい大人なんだし、親離れくらいできるだろ」 「えっ…でも、そんなこと……第一、私がトシマで生きていけるわけがないし…」 「違う。トシマに住めって言ってるんじゃない。あんたも知るとおり、内戦が近い。もうじきイグラは終わるだろうし、トシマも戦場になる。俺が言いたいのは、トシマを出て余所の土地で生きろってことだよ」 「それこそ無理だよ。イグラの参加者くらい強くても旧祖を抜けられないのに、私に出来るわけない」 「俺はあんたのそういうところが嫌いだよ。“泣き言吐いてんじゃねぇよ、生きていて、動くことが出来るくせに”」 そう言ったケイジの口調は、非難というよりは笑いながらの少しおどけた調子だった。それに、ケイジの言葉は私が最初に彼と交わしたのと同じものだ。そのことが分かったので、私はなおも「無理だ出来ない」と繰り返すつもりでいたのが、何となく言えなくなってしまった。 押し黙った私を満足そうに見ながら、ケイジは突然腹部に何かを押し付けてきた。 勢いに乗せられてよく見ないまま受け取ると、それはナイフホルダーに収まったケイジのナイフだった。唐突な行動に戸惑いながら、「ちょっと、これ…」と私はケイジを問い詰めようとした。 「これからは自分の身は自分で守るんだ、そのナイフを使って。それに、あんたはひとりじゃない」 こちらの言葉を遮ってそう言うと、ケイジはベッドから降りて唐突に私を抱きしめた。ふわりと緩く包み込むような抱擁だった。私は驚いたが、抱きしめられた拍子にふと独特の臭いが鼻をついて、ぎくりと動きを止めた。 これは、血の臭いだ。それも、シキからではなく、確かにケイジから漂ってくる。 まさか、怪我が――。 我に返った私が怪我のことを問いただそうとしたとき、ケイジが私の両肩を掴んでぐいとシキのほうへ押し遣った。きっとシキは私など押し付けられて怒るだろう、最悪の場合殴られるかもしれない。一瞬のうちにそんなことを思い、私は思わず身を竦める。 けれど、意外なことに、背後から伸びた腕がしっかりと私の両肩を受け止めた。 「俺はもう行く。のことを頼む…守ってやってほしい」 呆然とする私に「ほら」というように眉を上げて見せてから、ケイジは私の後ろのシキに笑いながらそんなことを言った。こちらからすれば、とても笑いごとではない。頼まれたって、シキは足手まといなど押し付けられても困るだろう――私が一人で焦っていると、不意にシキが声を発した。 「――俺にこれを守れというのか…殺すためだけに刀を振るってきた俺に」 「あんた以外の誰に頼めって言うんだよ」 ケイジは、ごく当たり前のようにそう言った。意外なことに、シキも言い返さない。いつの間にこの2人はこんな軽口めいたやりとりをするほど親しくなったのだろう、と少し訝しい気もする。 言い終えると、ケイジはこちらへ背を向けて戸口へと歩いていく。「待って!」私は慌ててシキの手をすり抜けケイジを追った。 「どこへ行くつもり?ケイジ、確かあなたの武器は兄さんからもらったナイフだけだったはず。武器も持たないでトシマを歩くなんて危険なのに」 「俺は必要なくなったから、あんたに持っていてほしい」 腕を掴んで問い詰めると、ケイジは諭すように言ってそっと私の手を腕から外した。ナイフなんかいらないから置いて行かないでほしいと言い募ってみても、ただ笑って首を振るばかり。ケイジの中で、それは動かしがたい決意なのだということは私にも感じられた。 それでも、納得して見送ることはできなかった。 だって、これではまるで最期の別れのようで――。 去っていくケイジをなおも追いかけようとすると、今度は後ろから右の肩を掴まれた。シキの手だ、と思いながらもう一度その手を振り切ろうとする。途端、肩を掴む手に痛いほどの力が込められ、私は動きを止めた。 「行かせてやれ。あの男にはあの男の決めた死に場所がある。他人が口をはさむことではない」 「っ…だけど、…せっかくまた会えたのに、こんな…っ」 私は振り返らないまま口では抗ったが、ケイジの気持ちもシキの言わんとするところも、何となく理解できてしまった。 ケイジは兄のことを大切に思っていて、そのために<獣>のような生から解放したいと願った。けれど、兄を大切に思うからこそ、兄を殺した自分を許せないでいる。他人がそれでも生き続けろと言うのは簡単だが、ケイジはよほど辛い思いを抱えて生きなければならない。 そのことに思いいたったから、私はそれ以上動けなくなってしまった。相手の気持ちなど無視して引き戻せない自分が情けなくて、勝手に涙が溢れた。視界が滲んで、ケイジの背中も何も見えなくなる。ほどなくして、部屋の金属製のドアが閉まる音がして、ついにケイジが出て行ってしまったことが分かった。 途端、我慢が出来なくなって、私はずるずるとその場に座り込んだ。身を二つに折るようにして、手にしたままのナイフを額に押し付けながら、声を殺して泣いた。 その間シキは無言だったが、しばらくすると声をかけてきた。 「いい加減泣き止め。もう気が済んだだろう」 その言葉で、気を遣ってくれていたのだということは分かったが、逆らって俯いたまま首を横に振る。すると、シキは今度は少し苛立った声音で「いつまで泣くつもりだ」と言った。私は、それでも首を横に振った。 今ここで見捨ててくれればいい、と思ったのだ。 ケイジはシキに私のことを頼むと言ったけれど、それも奇妙な話だった。血のつながりもない、金が有るわけでも見目が美しいわけでもない私を預かる義務も義理も利益も、シキにはひとつもない。妙な希望は持つべきではない。それに、たとえシキが受け入れてくれるとしても、あんな形で元の時代を離れて心配させているだろう家族のことを思うと、勝手にシキと生きるのだという希望を持つことを私は自分に許せなかった。 だから、いっそ今ここでシキから見捨てられてしまいたかった。 そうして愛想(もしそんなものがあったとしたらだが)を尽かされたら、元の時代の家族や行ってしまったケイジを思って泣きながらこの廃墟で文字通り乾涸びよう。そう思いながら、私は頑なに下を向いて泣き続けた。 呆れたようにため息を一つ吐いて、シキはゆっくりと歩き出した。 カツカツカツ、とはっきりとした靴音が私の脇を抜けて、戸口へと進んでいく。とうとう見捨てられたのだ、と私は安堵と納得と不安の入り混じった気分で、最後通牒のようなその音を聞いた。それが、ふと止んだ。 「多少は骨のある奴かと思ったが、ただ泣くばかりとは…お前には失望した」 投げ捨てるような言葉の後に、チャリンと軽やかな金属音が続く。僅かに視線を上げると、見覚えのある銀色のロザリオが投げ捨てられている。私はぎくりとして、ロザリオを凝視した。どうして、これをシキが持っていたのか。きっとケイジが渡したのだろうが、なぜシキは受け取ったのだろう。一旦受け取ったのなら、なぜ、今私の前に投げ捨てるのか――。 シキの言うとおり、私が失望させたからだ。 けれど、シキは一体何を私に望んでいたというのか。 望まれる価値なんか、私にはないのに。 私はじっと息を潜めてロザリオを見つめ続ける。シキの靴音が次第に遠ざかっていくのが分かるが、追うことはおろか、顔を上げることもできなかった。 *** 夜はまだ明けてておらず、傾きかけた月がなおも明るく地上を照らしていた。 影が出来るほどに明るい瓦礫の原の真ん中を突っ切って、シキはトシマの街中へと戻っていく。戻りながらもいつになく苛立ちが募って、自然と瓦礫を殊更に踏みしだくような足取りになった。一体、なぜたかが女ひとりにここまで苛立っているのか、とシキは自分のことながら訝しくもある。 自分の言葉を聞かず、去った男のために泣き続けた。再び立ち上がる気がないなら、別に強制すべきことでもない。あのままでいるなら、いずれは野垂れ死ぬなりするだろう。その程度の存在に、自分は何を期待して苛立っているのか――。 トシマの街の入り口まで戻ってくると、建物の影に紛れるように立っていた男がのそりと姿を現した。処刑人のキリヲだ。よぉ、と旧友のように片手を上げてみせるのへ、シキは眉をひそめることで応じた。 「ここで何をしている。<城>がネズミに引っ掻き回されたらしいが、遊んでいる暇があるのか」 「あぁ、それな。おかげさまでビトロがヒスるヒスる。そのうち呼吸が止まるんじゃねぇかと思ったが、まぁ、あいつもあれでしぶといからな、今でもぴんぴんしてらぁ。どっちかっつーと、ヒヨの方が重症かねぇ。…っと、まぁそんなことはどーでもいいが、今日は遊びじゃなくてビトロの遣いだ」 「…遣い、だと?」 「おうよ。<王>への挑戦者が現れたから、明日<王>戦を行うってさぁ。挑戦者は、リンとかいうガキだ。顔は女みてぇに可愛いが、昔は大きなチームの頭だったらしいな。確か、ペスカ・コシカってぇチームだったか…」 そう言って、キリヲは意味ありげな顔つきでシキを見た。狂人のように見えて、その実以外に頭が良く情勢に通じたこの男のことである。シキが過去にペスカ・コシカをほぼ壊滅にまで追い込んだことも、知っているのかもしれない。 シキは静かに息を吐いた。 殺してやる、と叫んだリンの憎しみに満ちた表情。 どうかリンを殺さないでほしいと自分の前に立ちふさがった、“彼女”の眼差し。 そして、こちらを見ることなく頑なに俯いていた、“彼女”の背中――そこに、父に言い返すことなく嘆いていた母の姿が一瞬重なる。 結局、嘆き悲しむだけでは意味がない。不服に思うことがあるなら、それを変えるには力が全てなのだ。彼女が泣き崩れたとき思わずその背に手を伸ばしかけた自分を打ち消すように思いながら、シキは口を開いた。 「――分かった。明日、<城>へ寄る」 目次 |